第65話 古井戸1

文字数 477文字

 子どものころに住んでいた家は、古い日本家屋だった。
 トイレはボットンで、母屋から離れたところにある、今考えてみても最悪な物件。
 扉を開けてでっかいカマドウマがいたときは、そのたびに「一刻も早くこんな家出たい」と思わされたっけ。

 それと古井戸があった。
 飲めたら良かったんだけど、わたしが生まれたときはすでに枯れていて使えなくなっていたみたい。
 危ないからって、ベニヤ板を何枚か重ねたやつを針金でグルグル巻いてふさいであった。

 ある日、わたしは両親とケンカした。
 弟が先に蹴ってきたのに、反撃したらなぜかわたしが悪者にされた。
 こう書くと、すごくささいなことのように思えるけれど、当時のわたしは本当に腹が立った。
 ハラワタが()えくり返るって、たぶんああいうことをいうんだろうな。

 とにかく、わたしをないがしろにしたことを両親に後悔させたかった。
 そこで古井戸の存在を思い出した。
 夜中に抜け出して古井戸のフタを開け、姿をくらまそうという計画を思いついた。
 どこかに隠れて朝を迎えれば、両親の扱いを苦に古井戸に飛び込んで自殺したと思うんじゃないか……って。
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