68:プレゼンとパワポと魔王城
文字数 2,065文字
円形のテーブルには井上先輩や憎きハゲ達磨こと近藤を含む、各部の長たちがついている。他にも、東京支部長、支部長補佐、専務、常務。一番奥に座っている白髪をした欧米人の爺さんが、会長である。つまり、管理十界を除けば【ファンタジートラベル】のトップだ。
私が【ホテル魔法城】に関するプレゼンを行いたいという話は、井上先輩が説明してくれた。いつもの会議を始める前に、まずは私のプレゼンに時間を割いてくれることになった。
なので、手のひらに収まるキューブ型のプロジェクターと、魔王ちゃんステッカーでデコったノートパソコンを無線で同期させ、ホログラムを用いた3次元式パワーポインターによるプレゼンを開始する。
「ではこちらをご注目ください」
投影されたホログラムに表示されているのは、今回のプレゼンのタイトル。
【ファンタジートラベル】と【ホテル魔王城】が契約を続けるべき理由
「今回のプレゼンの目的は、【ホテル魔王城】との契約によって【ファンタジートラベル】に利益をもたらすことができる――という事実の証明にあります。これを実行すれば、東京支部は他支部からも一目置かれることとなりますし、逆に契約を破棄することによって生じるデメリットを、回避することもできます」
テーブルを見渡すと、近藤が睨んでいた。
なにをしているんだ貴様利益だと? そんなものないわ。消えろクビしたるわ糞女。
とでも言いたげな顔だ。
私は気にせず、プレゼンを続ける。会長の前では、さすがの近藤も余計な口出しはできまい。
画面の切り替えを、ページをめくるようなアニメーション演出で切り替える。
立体感あるホログラムの文字が一文字ずつプロジェクターから射出され、意味のある形に並んでいく。
『魔王城と契約することの利点』
一度にすべての情報を出すよりも、こうして小出ししていくほうが、内容が頭に入りやすくなるのだ。これは、パワーポイントを使ったプレゼンのテクである。
次に、
・魔王城が人気になることによって、お金が【ファンタジートラベル】に入ってくる
・魔王城を目当てに来た人々に向けて、さらなる事業を展開することができる
という文字を順番に展開させ、関連するイラストを載せた。魔王ちゃんに頼み、絵が得意な魔族に描いてもらったイラストだ。もちろん、事情は伏せている。
上記が、今回の結論だ。その根拠を、これから述べていく。
「そもそも、他の異世界ではなく、魔王城に人々が求めるものとは、なんだと思いますか? 近藤先輩、どうですか?」
「知るか。そんなものないから、5年も連続で最下位だったんだろう」
声に苛立ちが乗っている。
「そうでしょうか? この質問を、新宿の若者300人に聞いたところ、このような結果になりました」
と、円グラフを展開させる。
実際に私と美咲が集めたデータによると、結果は次の通りになった。
1位「ラスダン感」
2位「冒険感」
3位「かっこいい魔族や魔王」
「このように、日本の若者は魔王城に少なからず、興味を抱いていることがわかります。であるにもかかわらず、魔王城は人気が出なかった。それは、魔王が触手をけしかけたり、客を牢獄に入れたりという、魔王城らしさの演出を勘違いし、客とホテル側でのすれ違いが発生してしまったからです」
ここでアニメーションを挟む。牢獄に入れられる冒険者の図だ。
「そこで、私はこの致命的な欠点を克服しつつ、みんなが求める、それでいて魔王たちも納得するような、かっこいい魔王城感を演出させるように持っていきました。それがこちら」
・ほかにはない温泉
薬湯入りのペットボトルを、テーブルに置いて見せる。
「これは、どんな傷もまたたく間に治してしまう、魔法効果のある薬湯です」
私は胸ポケットからカッターを取り出し、手のひらに刺して見せた。
「ひえっ」
近藤が悲鳴を上げたが、気にせず血のあふれる手のひらを見せる。それから、ペットボトルの湯を少し、手のひらにかけた。すると、傷が一瞬で治る。
「どうです? この即効性」
「おおおお!」
歓声が上がった。近藤以外から。
「その他にも、魔王城には肌荒れに効く薬湯や、肌のバリア機能を高めるものなど、様々な魔法の湯が存在しています」
私は説明に合わせて、具体的な薬湯の種類を、ホログラムで表示させる。
誰かが、呟いた。
「肌荒れも一瞬で治るなら、もうステロイドは卒業だな。あ、もしかしてコレ、歯や歯茎にも効く? 虫歯とか歯周病も治ったらいいなぁ」
「欠けた歯を治すどころか、抜けた歯すら治せますよ。歯茎の腫れも改善できますし、汚れに効く除菌作用のある湯水も使えば、歯周病菌も一蹴できます」
私は答えた。
それから、
・冒険感(いろいろな風呂の写真を表示)
・王城に安く泊まって気軽にリッチ感(城内の写真を表示)
など、様々な魔王城の特徴を解説した。