20:魔王になったり勇者になったり

文字数 1,740文字

「そう。かっこよさだよ! ラスダンって、別に不気味なだけじゃなく、かっこよさがあってもいいと思わない? つまり、かっこいい魔王城にするの」
 そもそも、魔王からして見た目が幼女なのだ。不気味さ、ホラーっぽさに全フリすることは、すでに不可能なのだ。別の方面で攻めても、いいはずだ。
「かっこいい、魔王城……」
 レイシアが復唱する。

「ほら、魔族にもさ、いろいろいるでしょ? 門番にいたゴーレムとか、かっこいいじゃん? ああいうのも推していく感じでさ。魔王城が気味悪がられるより、かっこいいって思われて、好かれたほうがよくない?」
「……そう、ですね。いいかもしれないです」
 ゴーレムのことは取ってつけた援護だったが、ローパーちゃんが折れた。
「レイシアもいいと思う」
 ふたりとも頷いてくれる。
「んなら、オーナメントもかっこいい路線だな。十字架とか、光る魔法陣とか、ぽいんじゃね?」
 とスライムくんはノリノリだ。男の子は、こういう路線が好きなのだ。また、いい案が出た。最初の会議にしては、幸先がいい。魔王ちゃんも参加してくれたらなお良かったのだが、いきなり贅沢は言わない。
「いいね。方向性が決まったよ」
 とりあえず、


・推したい魔王城要素→かっこいい魔王城、光る魔法陣や武具とかを飾る


 とホワイトボードに書き足す。

「魔王城の良さといえば、魔王様がいることではないでしょうか。魔王様がいるのは、魔王城だけです。ここをうまく推していければと思います」
 ローパーちゃんが挙手した。
「そうだね。魔王ちゃんがいて、たくさんの魔族がいる。これを活かせたらいいよね」

・魔王城の良さ→魔王がいること、それを活かしたい

 さらに書き足す。
「魔王城に来る客が求めるのも、魔王じゃねえの?」
「そうかもね。でも、今の魔王ちゃんみたいに、襲いかかるのは違うと思うんだ。それ以外の方法で、魔王がいるということを活かせたらと思う。つまり、みんなは魔王になにを求めるのかなんだけど」
「じゃなくってよ、魔王が一人じゃなくてもいいんじゃねって話?」
「……え?」
 スライムくんが続ける。

「魔王城に来る客が魔王になって、魔王様って呼ばれたり、あるいは勇者になったりよ。危害を加えるのはNGでも、それっぽいやりとりをゲームとして出来たら、楽しいだろ」
 つまり、例のクエストゲームみたいなものだ。
「いいかもですね。泊まりに来たお客さんは、冒険者や勇者、もしくは魔王様の配下になれるとして、衣装も用意したら、楽しくなりそうです。そういう場なら、私のこの容姿も、気持ち悪がられないですむかもしれませんし」
 ローパーちゃん、やっぱり容姿を気にしていたのか。
 というか、もしかして不気味感にこだわっていたのは、迷走している魔王ちゃんだけなのではないだろうか。私が別の魔王城らしさのイメージを固めて、みんなを誘導していけば、魔王ちゃんも折れざるを得なくなるかもしれない。なにしろ、勝手にやれという許可は出ているのだ。
「衣装はどうやって用意するかだけど」
「裁縫魔法が得意な魔女たちにお願いしましょう。私が頼んでおきますよ」
 ローパーちゃんが言った。
「ありがとう。じゃあ、お願いするね。とりあえずこの方向性で、飾り付けをして、食事も用意しよっか」
 異論は上がらなかった。

 いずれにしても必要なのは、掃除や客室の用意、そして山の手入れだ。少なくとも、歩道くらいは整備する必要がある。なので、これら基本準備を行うメンバーも用意しないといけない。
「魔王城にはさ、どのくらいの魔族がいるの? 掃除とか担当している人もいるのかな」
「雑用の多くは私と、レイシアさんが担当しています。他にもメイドと触手部隊が十数人、分担して行っています」
 ローパーちゃんが言った。
「ふむふむ。みんなはここに住んでいるんだよね? 空き部屋とか、空きの布団とかはあったりする?」
「やめていった魔族も多いので、ありますよ」
 とローパーちゃん。
「従業員や道具のリストなら、オレが用意できるぜ。こういうこともあろうかと、常日頃からデータをまとめているからな」
 今度はスライムくんが言った。
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登場人物紹介

花崎宮子 25歳  / ホテル《魔王城》経営隊長


異世界旅行提供会社《ファンタジートラベル》で働く、優秀なツアー部の社員。さまざまな企画を立て計画的に実行、ツアー企画や地域復興などで結果を出しまくっている。という経歴からの左遷をくらった。魔王城で働くがんばりやさん。



魔王 ラティ  / ホテル《魔王城》社長(魔王)


見た目は幼女。人間はRPGにでてくる魔王城を好んでいると知り、泥の魔物や触手をけしかけ楽しませようとした。それが逆効果だったことを、彼女は知らない。家族思いの優しい娘だが、プライドが高く自信家。根拠のない自信を持つ困ったところがある。

新村美咲  / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部所属


宮子の後輩。入社1年目。努力家だけどドジで要領が悪い。胸が大きく、マイペースな性格。ツアー部で、王道的な冒険気分が楽しめる、人気のファンタジー世界を担当している。

井上 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》広告部の先輩


宮子のことを評価している。今回の左遷に反対している。


近藤 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部の先輩


女性を軽視している中年の男。宮子が出世し、女性のくせに自分より上へ行くのが嫌で、左遷させた。社内でもそれなりの立場で、彼に味方している取り巻きが存在。


ローパーちゃん  / ホテル《魔王城》マッサージ・接客担当


見た目がグロい触手。敬語で喋る、真面目で魔王城の委員長的な存在。しかしグロい。

レイシア  / ホテル《魔王城》飲食担当・魔王城カフェ店長


シャイで女の子好きなゾンビ。生前は喪女なメイドで、その頃から魔王の世話をしていた。魔王に蘇生された恩義があるものの、人見知り。緊張すると、ネバネバした緑色の液体を吐く。

スライムくん  / ホテル《魔王城》データ管理・ツイッター中の人


意識高い系のスライム。

ルカ姉  / ホテル《魔王城》交通手段担当


ドラゴン専門のゲイバーに勤めていた繊細なオネエ。本名はシュヴァルツ・デスダーク・キルカイザー・ブラックドラゴン。

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