55:魔王城への交通手段

文字数 1,709文字

 ミーサさんの彼氏であるなんとか大納言さんはとても優秀で、全長10メートルもあるルカ姉用の鎧を、3日で用意してくれた。
 上半身と両腕を赤い金属(反魔法鉱というらしい)で覆い、ひらけた背中部分からは、立派な双翼を伸ばす。どこからどう見ても、強くてかっこいいドラゴンだ。
 ちなみに、トレントの件だけど。結局、排水口を広げて蓄積できる抜け葉の数を増やすことで落ち着いた。これで、詰まる前に掃除を行なうことができる。


「あらん。思っていたより、悪くないわねん」
 ルカ姉が鎧を装備し、魔王ちゃんが魔法で出した鏡代わりの氷壁を見つめて、うっとりする。
 喋らなければ、どこから見てもカッコいいドラゴンだ。とはいえ、喋るなとは言えない。オネエなのはルカ姉のアイデンティティである。否定はできない。
「一枚、写真を撮ってツイッターにあげてもいいか?」
 スライムくんが言うと、
「いいわよん。ポーズはどんなのがいいかしらん?」
 とウインクする。
 これじゃないことだけは確かだ。確かだけど、ううむ。
「自然体が一番魅力的なオンナこそ、モテるもんだぜ。普通に立ってくれればいい」
「そう?」
 ルカ姉が二本足立ちする。
 さすがスライムくんだ。簡単にルカ姉をのせた。

「んじゃ、撮るぜ。火炎系攻撃魔法の最上級は?」
「フレアバーストよん❤」
 カシャカシャカシャ。
 連写された。
「ついでにホログラム動画も撮るか」
 スライムくんはスマホをルカ姉に向けたまま、彼女の周りを跳ねていき、ぐるりと一周。
「よし、こんなもんか」
 スライムくんはスマホから、ルカ姉のホログラム映像を出現させた。立体的なルカ姉を一周する、30秒ほどのホログラム映像だ。
「あとはこれを添付して、ツイート、と」
「どうかしらん?」
「まだフォロワーは8000人ほどだ。そんなにすぐ反響は――お?」
 ピコピコン。ピコン。ピコンピコン。
 スライムくんのスマホが鳴る。
「おおっ、あっという間に20リツイートだぜ。いいんじゃねぇか? みんな、ルカ姉のかっこよさに釘付けだ」
「あらあらん。あたしってば、かっこいい路線でも攻めていけるオンナだったのねん」
 どう考えても、ドラゴンはそっち路線専門だろう。だが、ローパーちゃんの時と同じで、まずルカ姉を知って、好きになってもらえれば、今度は接していく中でルカ姉を可愛いと思い始める人も出てくるかもしれない。
 そうだ。ルカ姉がオネエなのは変えようのない要素なのだ。ならば、結局のところルカ姉のありのままを受け入れさせる方法を取るしかない。
 
 ①まずはルカ姉をカッコいいドラゴンだと思わせる。
 ②ルカ姉は親しみのある優しいドラゴンでもある、と気づかせる。
 ③そこで可愛い部分も見せて、ギャップを狙う。

 このように段階を踏むことで、オネエのドラゴンというインパクトを分散させ、受け入れさせるのだ。
 その次にはルカ姉のファッションショーでも開こうか。ルカ姉にとっても、それがいいはずだ。

「ねえみやみやちゃん」
「え? 私のこと?」
「あたしにもなにか出来る仕事はないかしらん? みんながあたしを怖がらずに求めてくれるのなら、サービスしてあげたいわん」
 待っていました。
 打ち解けてから本題に入る作戦、成功である。
「それだったら、人を乗せて運ぶというのはどうかな。これはルカ姉にしかできない仕事だと思うんだけど」
「それはいいけれど、危なくないかしら?」
「たとえばなにか家的なものを作って、それを背負い飛ぶというのはできるかな?」
「大きさにもよるけれど、そうねん。案内所くらいのなら、運べるわよん」
 十分である。
「問題ないよ。ありがとう、ルカ姉。それじゃあ、その方向で行こう」
「これで交通手段ゲット?」
 とレイシア。
「うん。あとは乗る部分のハウス的なもののデザインだけど……」
「やっぱり、デザインはかっこいい路線になるのかしらん?」
「うーん」
 鎧姿をしているのに、家部分だけ乙女チックというのもアンバランスだ。しかし、あまり方向性を指定しすぎるのも、ルカ姉に悪い。
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登場人物紹介

花崎宮子 25歳  / ホテル《魔王城》経営隊長


異世界旅行提供会社《ファンタジートラベル》で働く、優秀なツアー部の社員。さまざまな企画を立て計画的に実行、ツアー企画や地域復興などで結果を出しまくっている。という経歴からの左遷をくらった。魔王城で働くがんばりやさん。



魔王 ラティ  / ホテル《魔王城》社長(魔王)


見た目は幼女。人間はRPGにでてくる魔王城を好んでいると知り、泥の魔物や触手をけしかけ楽しませようとした。それが逆効果だったことを、彼女は知らない。家族思いの優しい娘だが、プライドが高く自信家。根拠のない自信を持つ困ったところがある。

新村美咲  / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部所属


宮子の後輩。入社1年目。努力家だけどドジで要領が悪い。胸が大きく、マイペースな性格。ツアー部で、王道的な冒険気分が楽しめる、人気のファンタジー世界を担当している。

井上 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》広告部の先輩


宮子のことを評価している。今回の左遷に反対している。


近藤 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部の先輩


女性を軽視している中年の男。宮子が出世し、女性のくせに自分より上へ行くのが嫌で、左遷させた。社内でもそれなりの立場で、彼に味方している取り巻きが存在。


ローパーちゃん  / ホテル《魔王城》マッサージ・接客担当


見た目がグロい触手。敬語で喋る、真面目で魔王城の委員長的な存在。しかしグロい。

レイシア  / ホテル《魔王城》飲食担当・魔王城カフェ店長


シャイで女の子好きなゾンビ。生前は喪女なメイドで、その頃から魔王の世話をしていた。魔王に蘇生された恩義があるものの、人見知り。緊張すると、ネバネバした緑色の液体を吐く。

スライムくん  / ホテル《魔王城》データ管理・ツイッター中の人


意識高い系のスライム。

ルカ姉  / ホテル《魔王城》交通手段担当


ドラゴン専門のゲイバーに勤めていた繊細なオネエ。本名はシュヴァルツ・デスダーク・キルカイザー・ブラックドラゴン。

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