58:魔道具バルーン

文字数 1,314文字


 駅地下の通りを歩いていると、
「あっ、Tシャツもある」
 レイシアが駅内の別の土産屋を見つけ、立ち止まる。
 Tシャツもたしかに土産物として、定番の商品だ。
 人気のある観光地になると、複数種族に対応するべく服のサイズから形状まで、多くのバリエーションを用意している。たとえば、ローパーちゃんのように体の細い魔族でも着られる服。ルカ姉のように、体が巨大な魔法生物でも着られる服。背中に翼を持つ人間も存在しているので、穴の空いた服も売られていたりする。
 靴となると、さらに複雑だ。足が三本以上ある人種や、鋭い爪を持つ獣人など、足の形状や個々人(同じ人間でも、足に合う合わないはある)により求められる靴のカタチが変わってくる。
 その点、魔王城は楽だ。魔族たちは暮らす側。客として招くのは、主に地球の人間。だから、私が着られるような服を用意するだけで事足りるのだ。実際に着るかどうかは、デザイン次第だ。

「シャツも作ろっか。簡単だし。カフェ内に物販コーナーを用意すれば、メニューの売り上げも伸びるかもね」
 レイシアが顔を輝かせる。
「ありがとう、宮子さん」



 そのあとは京都拉麵小路にて、【アクアワールド】産の海産物を具にした魚介スープの異世界ラーメンを食べた。
 そして、魔界観光案内所。

「ミーサさん、いる?」
「宮子さん、それにレイシアも。どうしたッスか?」
「京都で八つ橋買ってきたんだ。食べる?」
「マジッスか! 食べるッス!」
 ミーサさんはいじっていたスマホをカウンターに置いた。
 私は八つ橋を食べながら、ミーサさんに小屋の話をする。ミーサさんは言った。
「そういうことなら、これを使ったらいいッスよ」
 ミーサさんがカウンターの下から、黄金色をした金属製の腕輪を取り出す。大男、あるいはサイクロプス級の魔族用なのか、腕輪にしては少し大きい。
「これは?」
「魔道具バルーンッスよ」

 魔道具。それは、魔力を込めることでなんらかの魔法効果が発生する道具だと、聞いている。魔力のない地球人には扱えないし、魔道具の存在する異世界は少ないため、数える程度しか見たことがない。
 そんなものがぽんっと出てくるあたり、やはり魔界は特別なのだろう。
「魔法の力で、そう簡単には割れない泡を作れるッス。固定されることも出来るッスから、この泡をルカ姉に背負わせて飛べば、コスト0でお客さんを運べるッス」
「そう簡単には壊れないって、どれくらいの強度なの?」
「あたしくらいの魔力量の魔族が放つ、サンターフレアにも耐えるッスね」
「うーん。ちょっとよくわからないかな」
「地球風にいうなら……そうッスね。戦車砲の一撃にもギリギリ耐えられる、くらいッスかね」
 戦車砲といってもピンからキリまでだろうが、だいたいわかった。つまり、雨風で破損することは絶対になく、ただの人間がよりかかったり、叩いたりして割れることもないわけだ。
「でもそれ、貴重なんじゃないの?」
「昔シュヴァルツ様からもらったッスけど、あたしには大きすぎるッスからね。ルカ姉の指には、ちょうどいいンじゃないッスか?」
「腕輪を指輪にするわけね」

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

花崎宮子 25歳  / ホテル《魔王城》経営隊長


異世界旅行提供会社《ファンタジートラベル》で働く、優秀なツアー部の社員。さまざまな企画を立て計画的に実行、ツアー企画や地域復興などで結果を出しまくっている。という経歴からの左遷をくらった。魔王城で働くがんばりやさん。



魔王 ラティ  / ホテル《魔王城》社長(魔王)


見た目は幼女。人間はRPGにでてくる魔王城を好んでいると知り、泥の魔物や触手をけしかけ楽しませようとした。それが逆効果だったことを、彼女は知らない。家族思いの優しい娘だが、プライドが高く自信家。根拠のない自信を持つ困ったところがある。

新村美咲  / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部所属


宮子の後輩。入社1年目。努力家だけどドジで要領が悪い。胸が大きく、マイペースな性格。ツアー部で、王道的な冒険気分が楽しめる、人気のファンタジー世界を担当している。

井上 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》広告部の先輩


宮子のことを評価している。今回の左遷に反対している。


近藤 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部の先輩


女性を軽視している中年の男。宮子が出世し、女性のくせに自分より上へ行くのが嫌で、左遷させた。社内でもそれなりの立場で、彼に味方している取り巻きが存在。


ローパーちゃん  / ホテル《魔王城》マッサージ・接客担当


見た目がグロい触手。敬語で喋る、真面目で魔王城の委員長的な存在。しかしグロい。

レイシア  / ホテル《魔王城》飲食担当・魔王城カフェ店長


シャイで女の子好きなゾンビ。生前は喪女なメイドで、その頃から魔王の世話をしていた。魔王に蘇生された恩義があるものの、人見知り。緊張すると、ネバネバした緑色の液体を吐く。

スライムくん  / ホテル《魔王城》データ管理・ツイッター中の人


意識高い系のスライム。

ルカ姉  / ホテル《魔王城》交通手段担当


ドラゴン専門のゲイバーに勤めていた繊細なオネエ。本名はシュヴァルツ・デスダーク・キルカイザー・ブラックドラゴン。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み