13:レイシアに聞いてみよう
文字数 1,534文字
城の中も薄暗く、淡い赤い光を灯すランプが、やっぱり不気味な雰囲気を演出している。お年寄りや子供の客にとっては危ないし、ホテルとしてはいかがなものだろうか。
「か、鍵……これです」
レイシアは今時珍しい、アクリル製のスティックがついた鍵をスカートのポケットから出して見せて、ドアをガチャリとやった。
中は普通の部屋だった。照明はきちんと明るい白で、窓にはカーテン、ベッドとテレビとタンスがあり、風呂とトイレはないけど冷蔵庫があって。
「にゅ、入浴やお手洗いは……これを参考に……」
レイシアは鍵に手描きのフロアマップを添えて、手渡してきた。
どうやら同じフロアにトイレと大浴場があり、そこは自由に使っていいようだ。
まともな部屋もあるのだから、これを客に使わさればいいのに。
「では、レイシアはこれで……」
「ねえ、レイシアちゃん」
立ち去ろうとするレイシアの背中に、私は呼びかける。
「はひぃっ」
レイシアはびくりと肩を震わせ、振り返った。
「すすす、すみませんっ! ごめんなさいっ! なんでしょう宮子様!」
どうも、この娘は自分に自信がないようだ。こういうタイプには、馴れ馴れしくならない程度のフレンドリーさを見せて、警戒心を解かせるのが一番だ。
「宮子でいいよ。敬語じゃなくてもいい。それと、別に怒ってないから謝らなくていいし」
「はひっ、すみませ――」
レイシアの唇を立てた人差し指で塞いだ。
「だから、謝らなくていいって。敬語もいらないから、フランクに接して?」
「は、はい。いえ……うん」
レイシアが首を縦に振った。
「とりあえず、座って? ちょっと話したいことがあって。あ、忙しいなら無理にとは言わないけど」
「う、ううん。大丈夫」
レイシアは視線を下に向けつつも、頷いてくれる。
私はベッドに腰掛け、隣をポンポンと叩いた。驚いたことに、このベッド、ふかふかだ。
魔王とは魔界の王様なのだし、魔王城とは王城だ。考えてみれば、このくらい用意できて当たり前なわけだが。
そう、王城なのだ。そこをホテルにしているのに、人が集まらないわけがない。魔王のやり方さえ間違っていなければ。
正論はダメ、データもダメ。それなら、魔族たちから話を聞いて、なにか攻略の糸口はないか、探すことにする。
「いきなりやってきた人間に好き勝手言われたくないかもしれないけど、私は魔王城がもっと繁盛したらいいなって、思うんだ」
「……仕事、だからですか?」
「まあそれもあるけど、もったいなって思って。こんな立派な建物なのに、人が寄り付かないってのはさ」
これは素直な気持ち。こんなに立派なお城で、快適な宿泊ができるのなら、利用したい。そう思う。だって、贅沢な気分になれるから。もちろん金額次第だが。そういえば、ここの金額設定はどうなっているのだろう。
「でも、今の魔王ちゃんのやり方では、お客は離れていくばかりだと思う。私ね、昼間、人気のある異世界へ行って、なにが面白くてウケてるのか、見てきたんだ。ほら、写真もあるよ」
私はスマホの中のデータを見せながら、【アクアワールド】の素晴らしさについて語った。
「だからね、こんな風にもっと可愛いお花を植えたり、お部屋に可愛いぬいぐるみを置いたりとか、してもいいんじゃないかな~って思うの。だって、魔界とか魔王城って、全体的に不気味で暗いしさ」
レイシアは、言いたいことがあるけど言っていいのか迷っているといった具合に、もじもじした。