08:供給できることと、求められるもの
文字数 1,255文字
ローパーちゃんが耳打ちする。そのわりには声が大きいけど。
「ああ、そうだったな。ウチは後払い制なんだが、宿泊日数は事前に聞いておくんだ。貴様、何日ここにいるつもりだ?」
「ここって、この牢獄?」
「そうだが? 隣の部屋がいいか?」
隣の部屋も牢獄でしょうが!
一体なんの違いがあるのか、教えてもらいたい。
「0点だわ。むしろマイナス」
近藤の件といい、ヌメヌメといい、牢獄といい。なぜ私がこんな目に合わなければならないのか。やる気を出したはずなのに、度重なる理不尽を前に、ついに私の堪忍袋は弾けとんだ。
「ま、マイナス? なにかボクの行動に、問題があったか?」
魔王ちゃんが首を傾げる。私は少し、驚いた。
どうも、この女には私の言葉が一応は届いている。仲間には優しいらしいし、近藤のように、根っからのクズではないのだろう。
ともすれば、この魔王は思考回路のどこかがおかしいのだ。そこさえ直せれば、まだ救いようがある。
「あれ? 魔王様。よく見たらこの方、一昨日送られた資料の写真と、同じ方ではないですか?」
「む? 【ファンタジートラベル】から社員が派遣されてくるとかいうやつか」
ぽん、と手のひらを拳で叩く。
「そうか。貴様が花崎宮子であったか。すまないな。人間の顔を覚えるのは苦手でな」
あんただって、角が生えているだけで見た目は人間と変わらないじゃん。
突っ込みたいけど、それよりも言いたいことがあったのでやめた。
「魔王ちゃんはさ、ヌメヌメのグロテスクな触手で襲われり、臭い噴水に落とされたり、冷たい牢獄に入れられるようなのが、本気でサービスだと思ってるの? それで人間のお客が喜ぶって、思ってるの?」
「当然だろう。魔王城とは、多くのゲームで悪役の住まう場なのだろう? ボクは地球のゲームにもフレているぞ。それを知って魔王城にやってくる人間は、ボクに魔王城の魔王らしい振る舞いを求めているに決まっているのだ。客足が伸びないのは、ボクの魔王らしい振る舞いが甘かったからに違いない」
「いや、違ってるから。宿泊施設や観光地における満足度というのはね、供給できることと求められているものが一致することで、生まれるの」
ホテル側の供給
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ホテルの|お互い最高に満足
自己満足|
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――――|――――客が求めていること
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お互い |客は満足
最悪 |
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「魔王ちゃんの言う魔王城らしさは、客が求めているものじゃないってわけ。古風な王城と、可愛い魔王に珍しい魔物たち。それがあれば十分でしょ。あとは城まで簡単に来れるバスを用意したり、綺麗なお花を植えたり、部屋も豪華にするとかさ、基本的なことが出来てないんだよ。
とにかく、交通手段、掃除、娯楽、サービス面。ここらは必須。庭園もかわいくないよね。赤いランプも不気味。もっと可愛いランプにしなよ。それから――」