28:魔王城カフェのゾンビメイドちゃん

文字数 1,746文字


 夜。調理場から出てきたレイシアは、扉一つで繋がっている食堂のテーブルに料理を並べた。
 青や紫の毒々しい草花たちを、色が目立たないよう衣に包ませた天ぷら。
 同じく不気味な野菜たちを、ラーメンの具材にしてみたやつ。
 チョコで作った魔王ちゃんの人形を添えてみたケーキや、グロテスクなはずの魔界フルーツをカットして、食べられる魔王城のジオラマの飾りにしてみたり。城のてっぺんに立つ旗には、魔王ちゃんの似顔絵まで描かれている。
 ドロドロした緑のスープは、ゼラチンを用いて固形のスープゼリーに変化されている。中には色とりどりの野菜が入っていて、スープの上には、可愛い砂糖のローパーちゃん人形。スープの隣にはハート形のハンバーグ。名付けて、魔界の山スープ。
 見た目のよろしくない具材を使っているはずなのに、思いの外悪くない見た目になっている。

「えっ、可愛い」
 私の第一印象はそれだった。
 奇抜の色合いの食材も、アイディア次第でプラスに働くものだ。
「というか、弁当ってレベルじゃないんだけど」
 これなら本当に、コックをやれそうである。
 問題は、味だけれど。
 試しにいくつか食べてみると。
「美味しいじゃん! 美味しいよレイシア! これなら通用する! ううん、即戦力、魔王城の料理長だよ!」
 味も完璧だった。
 ほかの魔族からも、好評なご様子。

「で、でも、あの……レイシアは人見知り、直すのに……接客を……」
 それでも、レイシアは遠慮がち。とはいえ、ここで優秀なコックを逃すわけにはいかない。私はなんとか彼女を説得しようと試みる。
「あのさ。人には向き不向きってあると思うの。これだけ可愛いくて美味しい料理を作れる人、ななかなかいないよ。今【ホテル魔王城】には、レイシアの料理の腕が必要なの」
「では、人前には出るな……と」
「ううん、そうじゃない。人見知りの克服だって、無理しなくていいと思うんだ。たとえばさ、作った料理を運んで、その時にお客と接してみるとか。少しずつ、一歩ずつ、レイシアなりのやり方でいいと思う」
「少しずつ、一歩ずつ?」
「そう。だから」

 頭を下げる私。
「料理長! お願いします! 我々を助けてください!」
 少しずるいやり方かな、と思った。
 レイシアの性格から考えて、頭を下げられることにはなれていない。
「で、でも……」
「お願いします料理長!」
「わ、わかったっ! わかったから頭上げてぇっ」
 ついにレイシアが折れたので、顔を上げる私。
「きたねぇなぁ。あんな風に頼まれたら、レイシアは断れねぇってわかっててやったろ?」
 するとスライムくんが、私のやり口を見抜いて、言った。
「まあそれもあるけど、実際、無理に克服しようとするより、料理で自信をつけてからの方がいいとは思うんだ」

 そう。これも事実だ。
 もちろん、私が元いた課へ戻るために、【ホテル魔王城】に優秀なコックを確保したいというのが一番の理由である。しかし、苦手なことを克服する時に、自信をつけさせながら、小さなことでもいい、少しずつ前に進ませてあげるというのも、有効な方法なのだ。
 RPGだって、最初から強敵とは戦わない。それに、レイシアは自分に自信がないのだから、誰かが多少強引にでも、背中を押して上げる必要があるのだと思う。
「ま、たしかにな」
 スライムくんも納得してくれたようだ。
「あ、あの、それなら……その、やってみたいこと……があるんだけど」
 レイシアは恐る恐るといった風に、小さく右手を挙げた。
「ん? なになに?」
「あ、ま、魔王城……カフェ」
 ぼそり、呟かれる。
「魔王城カフェ!」
 なるほど、と思う。
 可愛いケーキに、ジオラマスイーツ。言われてみれば、カフェっぽいメニューだ。
「地球には、アニメとか、コラボのカフェあるでしょ? ああいうノリの魔王城版」
 とレイシア。
「いいじゃん。いいよね?」
「いいぜ」「いいですね」
 スライムくんとローパーちゃんが同意した。
 そんなわけで、それから一週間の間は、メニュー考案会議と試食会が行われた。店内の飾り付けは例のごとく、ミーサさんのオーナメントと、彼氏さんのレプリカ武具で行う。

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登場人物紹介

花崎宮子 25歳  / ホテル《魔王城》経営隊長


異世界旅行提供会社《ファンタジートラベル》で働く、優秀なツアー部の社員。さまざまな企画を立て計画的に実行、ツアー企画や地域復興などで結果を出しまくっている。という経歴からの左遷をくらった。魔王城で働くがんばりやさん。



魔王 ラティ  / ホテル《魔王城》社長(魔王)


見た目は幼女。人間はRPGにでてくる魔王城を好んでいると知り、泥の魔物や触手をけしかけ楽しませようとした。それが逆効果だったことを、彼女は知らない。家族思いの優しい娘だが、プライドが高く自信家。根拠のない自信を持つ困ったところがある。

新村美咲  / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部所属


宮子の後輩。入社1年目。努力家だけどドジで要領が悪い。胸が大きく、マイペースな性格。ツアー部で、王道的な冒険気分が楽しめる、人気のファンタジー世界を担当している。

井上 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》広告部の先輩


宮子のことを評価している。今回の左遷に反対している。


近藤 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部の先輩


女性を軽視している中年の男。宮子が出世し、女性のくせに自分より上へ行くのが嫌で、左遷させた。社内でもそれなりの立場で、彼に味方している取り巻きが存在。


ローパーちゃん  / ホテル《魔王城》マッサージ・接客担当


見た目がグロい触手。敬語で喋る、真面目で魔王城の委員長的な存在。しかしグロい。

レイシア  / ホテル《魔王城》飲食担当・魔王城カフェ店長


シャイで女の子好きなゾンビ。生前は喪女なメイドで、その頃から魔王の世話をしていた。魔王に蘇生された恩義があるものの、人見知り。緊張すると、ネバネバした緑色の液体を吐く。

スライムくん  / ホテル《魔王城》データ管理・ツイッター中の人


意識高い系のスライム。

ルカ姉  / ホテル《魔王城》交通手段担当


ドラゴン専門のゲイバーに勤めていた繊細なオネエ。本名はシュヴァルツ・デスダーク・キルカイザー・ブラックドラゴン。

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