70:「おかえり」「ただいま」

文字数 950文字


 駅に向かう道中、美咲に通話で改めて結果を伝えた。
『よかったですねぇ。これで先輩、魔王城に住み続けられるんですねぇ』
「うん。今じゃあそこが、私の家だからね。最高の職場だよ」
『やっぱり、アットホームが一番ですよねぇ。正直、私は働くのあまり好きじゃなかったんですよぉ。堅苦しいのとか、怒られるのとか、すっごい苦手で。学生時代、バイトはどれも続かなくて。将来はニートかもって、思っていたんですよぉ』
「ええ、意外」
『でもでも、【アクアワールド】はみんな優しいし、仲良く楽しく仕事をしてて。ここなら頑張れそうかもって、思ったんですぅ。実際、仲良く楽しくやれた方が、はかどりますよねぇ』
「そうだね。私もそう思う」
 もちろん、多少の緊張感や張り合いは必要だろう。そのためのランキング制度、と捉えることもできる。


 魔界につくと、案内所にはミーサさんの姿がなかった。
「あれ? ミーサさんは?」
「みんな、魔王城よん」
 声に振り返ると、ルカ姉がいた。
「ルカ姉。あの、私」
「わかってるわん。魔王様が全部、話してくれた。みんな、あなたのためにパーティをするって、準備していたのよん。早く、行ってあげましょ」
「パーティ……」
 いきなり帰ってレイシアたちを驚かすつもりだったのに。魔王ちゃんめ。私の方が驚かされるなんて、策士である。

「ありがとう」
「それは、向こうでみんなに言ってあげなさい。みんな、あなたを待っているのよん」
「うん! ルカ姉、私を城まで連れてって!」
「おやすい御用よん❤」
 ルカ姉がウインクした。

 魔王城までは、10分で着いた。門番のゴーレムまでもが城内にいるのか、姿がなかった。ルカ姉は二次会を庭園で行うので、その時に参加すると言い残し、飛び去った。私はスーツのネクタイを緩め、庭園を超え、城内へ続く扉を開けた。
 ぱんぱん。
 クラッカーが鳴った。
「宮子さん! レイシア、信じて待ってましたよ!」
 レイシア。
「魔王城には、宮子がいねぇとな」
 スライムくん。
「今日は24時間、ずっとパーティですよ」
 ローパーちゃん。
 そして。

「おかえり、宮子」

 魔王ちゃん。
「ただいま、みんな!」
 私は笑顔で、愛する家族たちに抱きついたのだった。

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登場人物紹介

花崎宮子 25歳  / ホテル《魔王城》経営隊長


異世界旅行提供会社《ファンタジートラベル》で働く、優秀なツアー部の社員。さまざまな企画を立て計画的に実行、ツアー企画や地域復興などで結果を出しまくっている。という経歴からの左遷をくらった。魔王城で働くがんばりやさん。



魔王 ラティ  / ホテル《魔王城》社長(魔王)


見た目は幼女。人間はRPGにでてくる魔王城を好んでいると知り、泥の魔物や触手をけしかけ楽しませようとした。それが逆効果だったことを、彼女は知らない。家族思いの優しい娘だが、プライドが高く自信家。根拠のない自信を持つ困ったところがある。

新村美咲  / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部所属


宮子の後輩。入社1年目。努力家だけどドジで要領が悪い。胸が大きく、マイペースな性格。ツアー部で、王道的な冒険気分が楽しめる、人気のファンタジー世界を担当している。

井上 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》広告部の先輩


宮子のことを評価している。今回の左遷に反対している。


近藤 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部の先輩


女性を軽視している中年の男。宮子が出世し、女性のくせに自分より上へ行くのが嫌で、左遷させた。社内でもそれなりの立場で、彼に味方している取り巻きが存在。


ローパーちゃん  / ホテル《魔王城》マッサージ・接客担当


見た目がグロい触手。敬語で喋る、真面目で魔王城の委員長的な存在。しかしグロい。

レイシア  / ホテル《魔王城》飲食担当・魔王城カフェ店長


シャイで女の子好きなゾンビ。生前は喪女なメイドで、その頃から魔王の世話をしていた。魔王に蘇生された恩義があるものの、人見知り。緊張すると、ネバネバした緑色の液体を吐く。

スライムくん  / ホテル《魔王城》データ管理・ツイッター中の人


意識高い系のスライム。

ルカ姉  / ホテル《魔王城》交通手段担当


ドラゴン専門のゲイバーに勤めていた繊細なオネエ。本名はシュヴァルツ・デスダーク・キルカイザー・ブラックドラゴン。

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