19:意識高い系スライムくん

文字数 1,268文字


「なにか思いついた?」
 私が促すと、レイシアは小さく頷き、語りだす。
「は、はい。あの、トラップとか、仕掛けを復活させるのはどうかなって。大戦時代はそういう仕掛けがあったし。危なくないような仕掛けにすれば、アトラクション的な感じ、なると思う」
「それ、面白そうじゃん」
 ダンジョンの仕掛けをアトラクション化する。まさに、魔王城感を残しつつ、客が楽しめる要素である。

「けどよ、そんな予算ないぜ? わりと自給自足で成り立っているからな。客を呼ばないと、財布もカツカツだぜ」
 とスライムくん。スライムくんはテーブルにノートパソコンを広げて、ぶよぶよした体の一部を尖らせて、器用にキーを叩いている。横から見える画面には、ワードが開かれていた。パソコンで会議のメモをとっているようだ。魔界にも意識高い魔族が現れる時代だ。
 というか、魔王城では自給自足をしていた事に驚いた。不気味な植物の生える山から、不気味な食べ物でもとってきているのだろうか。明日の朝食が怖い。
「うう。ごめんなさい」
 意見を否定されたと思ったらしく、レイシアがうつむいた。
 すぐに、フォローに入る。

「ううん、いいよ。そういうの、どんどん頂戴」
 どんな意見でも、とにかくいっぱい出させる。それが会議の基本だ。発言しやすい空気づくりもそうだが、なにげない意見がきっかけとなり、凄いアイディアが出てくることもあるのだ。
 レイシアは遠慮がちに私を見て、私が微笑む、
「……あ。それなら、オーナメントとか。魔王城っぽい飾り付けをするとか」
 ほら、来た。次のアイディア。
 オーナメント。つまり、装飾だ。クリスマスツリーでいうところの、リンゴとか、サンタの飾り。魔王城で言うなら、魔族の人形?
「オーナメントなら、素材を渡せばミーサさんが魔法で創ってくれるかもしれませんね」
 ローパーちゃんが追撃する。
「ミーサさん?」
「案内所に勤務している吸血鬼です」
「ああ、あのお姉さんミーサっていうんだ」

 たしか、素材をいじったりして、ものを創るのが得意だと言っていた。彼女の創ったフィギュアは、普通にお店に出しても、そこそこ需要がありそうに見えた。彼女は売れないと言っていたが、不気味な植物ばかり生やすよりかは、ずっとマシだろう。
 それに、得意なことを仕事にしてあげられたら、彼女的にも嬉しいのではないだろうか。自給自足しているらしい魔王城に、どこまで給料を払えるのかはわからないが、それでも無駄にランプとかつけまくっているくらいだし、金銭面も大丈夫だろう。
 ちなみに私の給料は、管理局から出るので問題ない。左遷されたとはいえ、私は【ファンタジートラベル】の社員であることには、変わりないのだ。
 仕事を与えるといえば、もうひとり、うってつけの人物がいた。
「だったら、ミーサさんの恋人に、鍛冶屋がいるんだよね? その人にも頼んで、武器とかのレプリカ創ってもらうのはどうかな。それで飾れば、かっこいい魔王城になると思うよ」
 自分で口にして、気づいた。
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登場人物紹介

花崎宮子 25歳  / ホテル《魔王城》経営隊長


異世界旅行提供会社《ファンタジートラベル》で働く、優秀なツアー部の社員。さまざまな企画を立て計画的に実行、ツアー企画や地域復興などで結果を出しまくっている。という経歴からの左遷をくらった。魔王城で働くがんばりやさん。



魔王 ラティ  / ホテル《魔王城》社長(魔王)


見た目は幼女。人間はRPGにでてくる魔王城を好んでいると知り、泥の魔物や触手をけしかけ楽しませようとした。それが逆効果だったことを、彼女は知らない。家族思いの優しい娘だが、プライドが高く自信家。根拠のない自信を持つ困ったところがある。

新村美咲  / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部所属


宮子の後輩。入社1年目。努力家だけどドジで要領が悪い。胸が大きく、マイペースな性格。ツアー部で、王道的な冒険気分が楽しめる、人気のファンタジー世界を担当している。

井上 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》広告部の先輩


宮子のことを評価している。今回の左遷に反対している。


近藤 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部の先輩


女性を軽視している中年の男。宮子が出世し、女性のくせに自分より上へ行くのが嫌で、左遷させた。社内でもそれなりの立場で、彼に味方している取り巻きが存在。


ローパーちゃん  / ホテル《魔王城》マッサージ・接客担当


見た目がグロい触手。敬語で喋る、真面目で魔王城の委員長的な存在。しかしグロい。

レイシア  / ホテル《魔王城》飲食担当・魔王城カフェ店長


シャイで女の子好きなゾンビ。生前は喪女なメイドで、その頃から魔王の世話をしていた。魔王に蘇生された恩義があるものの、人見知り。緊張すると、ネバネバした緑色の液体を吐く。

スライムくん  / ホテル《魔王城》データ管理・ツイッター中の人


意識高い系のスライム。

ルカ姉  / ホテル《魔王城》交通手段担当


ドラゴン専門のゲイバーに勤めていた繊細なオネエ。本名はシュヴァルツ・デスダーク・キルカイザー・ブラックドラゴン。

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