25:魔界オーナメント点灯式

文字数 2,059文字

 翌日も掃除や外の手入れをこなす。作業開始から3日がたつと、ミーサさんからLINEのメッセージが届いた。オーナメントが出来上がったので、取りに来てほしいとのことだ。
 たった3日で出来上がるとは、さすが魔法を使った制作である。
 私とスライムくんは、一つ目の巨人(といっても、身長は3メートルほど)サイクロプスの魔族二人に、荷台を運んでもらいながら下山した。

「これッスよ!」
 ミーサさんのカウンターに並べられているのは、可愛い魔王ちゃんや魔族のミニフィギュアに、アクリルスタンドキーホルダー、LEDライトで光る武具のオーナメント。すべて手のひらサイズである。
 それから、魔力を与えると光るという魔法陣の描かれたラバーマット。魔法効果により多少の傷や汚れは無効化にするという、直径1メートルのマット×10。
 あと、スプレー缶。
「スプレー缶は何に使うの?」
「城を囲う城壁に、魔王様のイラストを描くッス。スプレーアートが得意なリザードマンがいるッスから、協力してもらうことになったッス」
 とのこと。
 武具のレプリカは後日届くというので、私はサイクロプスくんたちにオーナメントを運んでもらい、魔王城に帰還した。

「これがオーナメントですね?」
 ローパーちゃんが興味深げに、荷台を覗き込む。
「うん。さあみんな、飾り付けをしよう!」
 どこにどのオーナメントを飾り付けるのかは、事前にミーサさん、スライムくん、ローパーちゃん、レイシアとの五人で会議済み。ほかの魔族も観覧できるLINEのグループを使って、オープンな会議を行った。
 決定したオーナメントの設置図を、スライムくんがまとめてプリントアウトしてくれたので、あとはその通りに取り付けるだけ。
 城の壁のような高い場所には、ヘルバードという鳥の魔族にお願いをした。こうして、その日は一日がかりで魔王城及び周辺を飾り付け。


 作業が終わると、すっかり夜だ。まあ、もともと魔界は暗いけれど。
 魔王城の放送室から魔界で人気のラップを流しながら、点灯式を開始させた。
「ではこれより、全ての光るオーナメントを点灯します! 10,9,8……」
 庭園に集まったみんなでカウントダウンをして、魔王城の電気系統を管理する部屋から、立候補してくれた魔族にスイッチを入れてもらう。
「「――2.1.0!!」」
 パパパパッ。
「「おおおおおーー!」」
 歓声が上がった。
 魔王城の壁、噴水、庭園の木々。いたるところで白や黄色や赤やピンクや緑など、様々な色の灯りが灯った。色は一定の間隔を置いて切り替わり、全体が同じカラーになったり、バラバラだったり、魔王ちゃんの顔になったり、変化していく。
 不気味の象徴だった噴水には、青く光る魔法陣マットを沈めた。ここにはゴーレムが魔力を込めてくれて、赤い水の底から浮かぶ青白い魔法陣は、不気味だけど美しくもあった。
 この魔法陣は、毎朝一回魔力を込めるだけで、ずっと輝いていられるとのこと。なお、ほかの魔法陣は城内に設置した。

「す、凄い……幻想的……」
「魔王城らしい不気味さを残しつつも、美しく……これぞ、芸術です」
 レイシアとローパーちゃんがうっとりして、
「うひょー! 魔法陣もかっけぇぜ!」
 スライムくんも私の頭の上で、大興奮。ほかの魔族たちも、苦労したかいあったと、嬉しそう。
「さっそく、撮った動画をツイートするぜ!」
 スライムくんがぴょんと地面に飛び降り、体の中からスマホを出した。
「撮った動画?」
「カウントダウンの様子を撮影していたんだぜ」
「さすがスライムくん!」
「フォロワーも増えてきているぜ」
 スライムくんはこまめに魔王城の作業様子や、魔族の女の子たちの写真をアップしていて、すでにフォロワーは2000人を超えていた。
 と、ここで魔王ちゃんからLINEのメッセージが届く。


魔王:なかなか綺麗じゃないか
   今回ばかりは認めてやろう、よくやった

私:あのさ、いちいちLINEするなら、外に出てくれば?

魔王:調子にのるなよ小娘
   まだ私はお前を認めていないのだ!


 どっちだよ。どうも、私を認めないと言った手前、素直になりにくいらしい。


 そして、翌日には装備品のレプリカと、おまけで作ったという魔王ちゃんとドラゴンの銅像が到着した。私はまだ見たことがないが、どうも、魔王城にはドラゴンがいるようだ。
 銅像は魔王城に続く山への入り口に設置し、剣盾槍斧などのかっこいい装備品のレプリカたちは、城の入り口や大浴場、客室などに飾った。
 もちろん、それも写真に撮ってツイート済み。

▼ホテル魔王城公式@mahouhoteru☓☓☓
 発注した武具のレプリカが届きました♪
 (写真) 
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 魔王ちゃんはちらちらと装備品やオーナメントを気にかけていたけれど、とくになにかを言ってくるわけではなかった(LINEは送ってきたけど)。
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登場人物紹介

花崎宮子 25歳  / ホテル《魔王城》経営隊長


異世界旅行提供会社《ファンタジートラベル》で働く、優秀なツアー部の社員。さまざまな企画を立て計画的に実行、ツアー企画や地域復興などで結果を出しまくっている。という経歴からの左遷をくらった。魔王城で働くがんばりやさん。



魔王 ラティ  / ホテル《魔王城》社長(魔王)


見た目は幼女。人間はRPGにでてくる魔王城を好んでいると知り、泥の魔物や触手をけしかけ楽しませようとした。それが逆効果だったことを、彼女は知らない。家族思いの優しい娘だが、プライドが高く自信家。根拠のない自信を持つ困ったところがある。

新村美咲  / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部所属


宮子の後輩。入社1年目。努力家だけどドジで要領が悪い。胸が大きく、マイペースな性格。ツアー部で、王道的な冒険気分が楽しめる、人気のファンタジー世界を担当している。

井上 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》広告部の先輩


宮子のことを評価している。今回の左遷に反対している。


近藤 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部の先輩


女性を軽視している中年の男。宮子が出世し、女性のくせに自分より上へ行くのが嫌で、左遷させた。社内でもそれなりの立場で、彼に味方している取り巻きが存在。


ローパーちゃん  / ホテル《魔王城》マッサージ・接客担当


見た目がグロい触手。敬語で喋る、真面目で魔王城の委員長的な存在。しかしグロい。

レイシア  / ホテル《魔王城》飲食担当・魔王城カフェ店長


シャイで女の子好きなゾンビ。生前は喪女なメイドで、その頃から魔王の世話をしていた。魔王に蘇生された恩義があるものの、人見知り。緊張すると、ネバネバした緑色の液体を吐く。

スライムくん  / ホテル《魔王城》データ管理・ツイッター中の人


意識高い系のスライム。

ルカ姉  / ホテル《魔王城》交通手段担当


ドラゴン専門のゲイバーに勤めていた繊細なオネエ。本名はシュヴァルツ・デスダーク・キルカイザー・ブラックドラゴン。

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