36:これが魔法の温泉だ!
文字数 2,019文字
夕刻。魔王城第一会議室。今回は魔王ちゃんとミーサさんも呼んで、【ホテル魔王城】を温泉宿にすることに関して、提案した。
「勝手にやれ。うまくいくとは思えんがな」
と、温泉の魅力を知らない魔王ちゃんのコメントでした。許可をもらえたので、次はどのような温泉を用意するのか、まとめていく。
まずは、魔王城裏に沸いている薬湯の一覧をホワイトボードに書き記す。それをパソコンでメモするのが、スライムくんの仕事だ。
・治癒魔法湯
無色透明で、浸かるだけで傷が治る
・ブルーポーション湯
青白い色をした湯で、浸かるだけであせもやアトピー性皮膚炎などの湿疹、および肌の炎症を治癒される。
・ブラックブルーポーション湯
黒よりの青色をした湯で、肌の奥底に残る炎症を治癒しつつ、肌バリアを構築させ湿疹や肌荒れへの耐性を与える。
・魔界桃の湯
保温、保湿、発汗、美容の効果があり、体が芯まで温まる。肌の変色やそばかすも消える。
・紅の湯
魔界にある薬草の一つが溶け込んだ、血のように赤黒い湯。青臭さもあるものの、腰痛や肩こりなど、節々の痛みを一時的だが、完治させる。
・エキストラポーション湯
銀色をした湯で、あらゆる病を治すという高い治癒魔法効果のある湯。しかし、こちらは貴重で、年に数回しか湧かないという。
・龍の湯
大昔、魔界で亡くなった巨大なドラゴンが土に還り、その強大な魔力が大地に染み込み溢れ出しているらしい。緑色をした湯で、浸かるとアレルギー体質が改善される。植物に対するアレルギーを持つ者は、先にこちらの湯へ浸かることがおすすめされる。
などなど。原理はわからないが、魔界の大地からはさまざまな魔法効果を持つ湯が湧き出してくるそうだ。
他にも、魔力の回復する湯、一時的に毒や麻痺を防止する湯、とかもあるらしい。
この辺りは他の異世界でダンジョン探索や狩りをしている方向けに、売り込もう。異世界の中には、魔法アイテムの眠るダンジョンがあり、そこには魔力を持つ猛獣こと魔獣が生息しているという。湯の持ち帰り(有料)もOKにすれば、需要はあるはずだ。
「肌トラブルを一発で改善できるのも大きいよね。しかも耐性までつけちゃうなんて」
「そんなに需要あんのか?」
とスライムくん。
「魔族はどうなのか知らないけど、地球の人間にはね、お肌の問題は深刻なの。夏のあせも、冬の乾燥肌。アトピーにストレス性の肌荒れ。一度悪化すると、かゆさと肌の損傷が無限ループして、それはもう、辛いですよ。なにが厄介って、なかなか治らないことなんだよね。しかも、皮膚科って混むし。それを治せる。これは凄いことだよ」
皮膚科を廃業に追いやりそうな効能だが、恨むのなら私を魔界に送った近藤を恨んでくれたまえ、皮膚科医の諸君。
「ふーん。そんなもんか」
イマイチぴんと来ていないスライムくん。魔族は肌も丈夫らしい。羨ましい。
「これを今まで推してこなかったのは、非常にもったいないよね。そこで、魔王城カフェと温泉の二つを主戦力にしつつ、オーナメントなどで視覚的にも楽しませる魔王城にしていこうと思う」
正確には薬湯と温泉は別物なのだが、細かいことは気にしない。
魔法効果のある温泉、と売り出した方がわかりやすかろう。
「宣伝はどうするのです?」
とローパーちゃん。
「スライムくんのツイッターのほかに、【ファンタジートラベル】が発行している異世界旅行情報誌や動画チャンネル内の広告などにも載せてもらえないか、交渉してみるよ」
追いやられたとはいえ、仕事として来ているのだ。社の力を利用する権利は残っているはずだ。
「それで、決めたいのは浴場のデザインなんだけど」
魔王城内の大浴場は、3階建ての別館を丸々使った豪勢な作りになっている。もちろん男湯と女湯で建物は別。つまり、合計で6フロア分もの浴場があるわけだ。
魔族の数が多いから、とローパーちゃんは言っていたが、その魔族が減った現在、機能しているのはどちらの館もフロア1のみ。フロア1内の階段から行き来出来る2~3階は、現在空っぽの浴槽が並ぶ殺風景なエリアになっている。
私はスライムくんに最新のパワポを使ってもらい、壁に投射された大浴場のホログラム映像を指差す。
「この使われていない2~3フロアを改造して、薬湯のスペースにしようと思うんだ。浴槽のデザインをそれぞれ変えていけば、ここからも魔王城らしさを演出できると思う。肝心の薬湯は、毎朝城の裏で湧いている湯を移動させて使おうと思う」
「そんなことをせずとも、転送魔法を使えばよかろう」
魔王ちゃんが言った。
「転送魔法?」
「非生命体限定だが、魔法陣から魔法陣へ物質を転送させる魔法だぜ。高度な魔法だから、ここじゃ魔王様しか使えねぇけどな」
とスライムくん。
魔界にはとても便利な魔法があるものだ。