23:魔界料理の欠点は

文字数 1,688文字


 3人でランチを過ごし、ミーサさんと別れた後は草刈りだ。
「さあ、やりますか!」
 最初の憂鬱感とは打って変わって、トントン拍子に話が進み、やる気はもりもり溢れてくる。
 けれど、失敗した。短剣では草がすべって全然斬れないのだ。悪戦苦闘していると、魔王ちゃんからLINEで応援のメッセージが届いた。


魔王:少しは頑張っているようだな

私:うん
  ただ、短剣で草刈りしようとしたらうまく斬れなくて
             
魔王:素人が短剣でww草刈りwwバカすぎて草生えるわww

 くそぅ。既読スルーしてやった。


 日が暮れた後に魔王城へ戻り、大広間(ここを食堂と呼ぶらしい)で晩飯にした。そういえば朝飯を抜いていたので、魔王城の料理を食べるのはこれがはじめてだ。
 大広間にはレストランみたいに丸いテーブルが並んでいて、今度こそ魔王ちゃんも現れみんなと同じように、テーブル席の一つに着いた。私は魔王ちゃんが見える距離のテーブルに、レイシアと一緒に着く。
 レイシアでなければゾンビでもないメイドの魔族が運んで来たのは、ハンバーガーと魔界イモのスープ、それにデーモンアップルなるもの。アメリカンなサイズを思わせる大きなハンバーガーには、何故か牙が生えているし、トマトやレタスは黒っぽくて、ボコボコと沸騰した泡のようなものがついたなにかの肉が、やけにグロい。
 スープは粘土を溶かしたような、ドロドロした緑の色の物体で、浮いているイモは人の顔の形をしているようにも見える。
 デーモンアップルなるものは、もはや蝉にしか見えない形をしていた。
「総じて、グロい」

 率直な感想。渋谷を歩く若者100人に聞けば、99人がそう答えるに違いない。魔界を歩く魔族に聞くと、結果が変わるのだろう。
 そんな思考が、顔に出ていたようだ。
「あの、でも、美味しいよ……?」
 レイシアは、ハンバーガーを両手に取りながら言った。むしろハンバーガーの方が食事をしそうな感じだが、豪快に噛み付いたレイシアの顔には、笑顔が浮かぶ。
 強制的に、食べたものを笑わせるというある種の麻薬めいた魔法でもかかっているのではなかろうか。そう思いながらも、レイシアに続いて、がぶり。
「あ、美味しい」
 見た目はともかくとして、肉は柔らかくジューシー。噛みしめると、閉じ込められた肉汁がいつまでも溢れ出てくる。ソースには複数の調味料が使われていて、複雑で美味しい味がする。
 野菜は甘みと酸味がほどよく融合しているし、牙に思えた部分も柔らかくてチーズの味がした。
 洗脳魔法にかかったのではなければ、見た目とのギャップが激しい美味しさだ。
 デーモンアップルと魔界イモのスープも、同様に美味であった。
「見た目がもうちょいマシなら、いいんだけど」
 実にもったいない。
 料理は見た目が命。次に味。これが私の持論だ。現に、旅館のサイトに載っている料理は、料理を作り美しく盛る役、美味しく綺麗に撮影する役の双方が仕事をした結果、生まれる芸術なのだ。
 そういう意味では、この料理は仕事がされていない。盛り方も、ダメ。美味しいが、ハンバーガーの野菜はパンから少しはみ出ているし、デーモンアップルは剥き方が雑で、皮が残っていた。
「調理の仕方や盛り付けの仕方で、もっと化けると思うな、これ」
「また魔界っぽい、だけどかっこいい方向で……?」
 レイシアが訊ねる。
「うん。それなら、魔王ちゃんも納得してくれるんじゃないかなって思う」
「けど、コックは不在だからな」
 振り返ると、後ろのテーブルにはスライムくんがいた。

「……不在?」
「よその異世界へ行っちまった魔族がいるって話はしただろ? コック連中がそれだ。今そのメシをつくってるのは、代理の料理人。たいした料理はつくれない奴らだぜ」
「うーん。それはまずいね。私も料理はあんまりだしなあ」
 料理人が見つかるまでは、これで行くしかないようだ。致命的な大問題だが、食に関しては追い追い考えるとしよう。担当者がいないのでは、どうしようもない。
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登場人物紹介

花崎宮子 25歳  / ホテル《魔王城》経営隊長


異世界旅行提供会社《ファンタジートラベル》で働く、優秀なツアー部の社員。さまざまな企画を立て計画的に実行、ツアー企画や地域復興などで結果を出しまくっている。という経歴からの左遷をくらった。魔王城で働くがんばりやさん。



魔王 ラティ  / ホテル《魔王城》社長(魔王)


見た目は幼女。人間はRPGにでてくる魔王城を好んでいると知り、泥の魔物や触手をけしかけ楽しませようとした。それが逆効果だったことを、彼女は知らない。家族思いの優しい娘だが、プライドが高く自信家。根拠のない自信を持つ困ったところがある。

新村美咲  / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部所属


宮子の後輩。入社1年目。努力家だけどドジで要領が悪い。胸が大きく、マイペースな性格。ツアー部で、王道的な冒険気分が楽しめる、人気のファンタジー世界を担当している。

井上 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》広告部の先輩


宮子のことを評価している。今回の左遷に反対している。


近藤 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部の先輩


女性を軽視している中年の男。宮子が出世し、女性のくせに自分より上へ行くのが嫌で、左遷させた。社内でもそれなりの立場で、彼に味方している取り巻きが存在。


ローパーちゃん  / ホテル《魔王城》マッサージ・接客担当


見た目がグロい触手。敬語で喋る、真面目で魔王城の委員長的な存在。しかしグロい。

レイシア  / ホテル《魔王城》飲食担当・魔王城カフェ店長


シャイで女の子好きなゾンビ。生前は喪女なメイドで、その頃から魔王の世話をしていた。魔王に蘇生された恩義があるものの、人見知り。緊張すると、ネバネバした緑色の液体を吐く。

スライムくん  / ホテル《魔王城》データ管理・ツイッター中の人


意識高い系のスライム。

ルカ姉  / ホテル《魔王城》交通手段担当


ドラゴン専門のゲイバーに勤めていた繊細なオネエ。本名はシュヴァルツ・デスダーク・キルカイザー・ブラックドラゴン。

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