63:お悩み相談
文字数 1,504文字
「飲み会を開いても、集まらんやつがいるのです。ワシはゴブリン隊のみんなとの親交を深めるべく、全員が楽しく参加できる飲み会を行いたいと思っとるのですが」
ゴブリン隊隊長のゴルドさんは言った。
魔界には小さな村がいくつか存在しているらしく、魔王城近辺だけが魔族たちの生活区域ではなかった。考えてみれば当たり前の話だ。
ゴブリン隊は小柄だけど鍛え上げられた体を持つ戦士たちで、魔界の村々に在中し警備をするのが仕事である。そんなゴブリン隊に、最近若いゴブリンが何名か加わったのだが、彼らが飲みに来ない、というのがゴルドさんの悩みであった。
私は机を挟んで反対側に座るゴルドさんに対し、人差し指を立て提案してみる。
「飲み会は参加制にしたらどうかな」
「参加制ですか?」
「仕事が終わったら早く帰りたい、と思っている魔族だっているはずだよ。そういう人たちに強制するのは、かえって逆効果だと思う」
「しかし、それでは親交が深まらないのでは……」
「飲み会に参加しないからといって、仕事仲間と打ち解ける気がないとも言い切れないからね。LINEのやり取りでもしてみたらどうかな。そっちの方が親近感わくし、距離が縮まるかもよ?」
「LINEですか……」
「飲み会に参加したい魔族もいるだろうから、自主参加制度にしてさ、参加しなかった者を責めることはしない。あとは、飲み会自体もいつやるか前もって決めておくと、予定もあけやすいよね。日にちや場所も希望を募ると、なおいいかもね」
「しかしそれでは、幹事役の仕事がなくなる」
「幹事なんて、店を予約するくらいでいいんだよ。若い者ほど、強制されるのが嫌だったりするし、むしろ居酒屋ではなくカフェという選択肢もありだと思うよ。酒の力を借りたくなるのもわかるけど、大事なのは楽しく過ごすことでしょ? なら、みんなの希望も聞かなくっちゃ」
「……うぅむ。ワシはいつまでも古い考え方にこだわっておったというわけか」
ゴルドさんは腕を組みうなり、それから立ち上がった。
「恩にきます。おかげで次はいい飲み会、いえ、集まりが開けそうです」
一礼し、私の部屋を出て行く。
すると、入れ違いで魔王ちゃんが入ってきた。
「あれ? 魔王ちゃん? どうしたの?」
「どうしたのはこっちのセリフだ。突然お悩み相談をはじめたそうではないか」
「まあね。サイト上に相談用の掲示板を用意してたんだけどね、中には直接会って話したいという魔族もいたから。月水金の夕方限定で、開いてみたの。今日が金曜日だから、3日目だね」
「みんなの笑顔のためにというやつか? 熱心なことだな。お前にそこまでされたら、魔族たちをまとめるボクの立場がないな」
と言いつつ、どこか嬉しそうな魔王ちゃん。
「みんなの誕生日を把握して、プレゼントを配ってる魔王ちゃんには負けるよ」
「なら、お前もやるか?」
「んーん、やめとく。一人に配ったら、みんなに配らないと不公平だし。みんなが笑顔で働ける仕事場を作ると決めた以上、なるべく贔屓はしたくないから。その役は魔王ちゃんに任せるよ」
友人として、レイシアやローパーちゃんの誕生日くらいは知っておいてもいいが、それなら直接本人に聞くべきであろう。
「そうか。真面目なことだな」
「それで、なにか用なの?」
「実はな、今朝案内所にこんなものが届いたらしい」
魔王ちゃんは白い封筒を手渡してきた。異世界専門の郵便屋が配達した封筒だ。宛先は私の名前になっている。送り主は――
「【ファンタジートラベル】東京支部長?」
「なにか重要な書類か?」
「心当たりはないけど……」