45:たまには遠回りもしよう

文字数 814文字

 夕方には【紅の魔弾】さんの動画がアップされ、なんといきなり20件も、ホテルに予約が入った。【紅の魔弾】さんが紹介したからというのもあるのだろうけど、動画のコメント欄を見ると、やはり薬湯に魅力を感じている人も多いようだった。
 その夜、私たちは食堂を使って、宣伝・薬湯成功の打ち上げを開いた。
 セルシウスキャットやクイーンも参加し、みんなでレイシアの料理を食べるのだ。
 バイキング形式になったため、ケーキを物色していると、ローパーちゃんは言った。

「やっぱり、たまには遠回りをしてみるものなんですね」
「ん? なんの話?」
「おしゃれですよ。見た目はきっかけで、後から中身を知ってもらう。これも遠回りじゃないですか。私は自分の外見ばかり気にして、こんな風に可愛いと言われることはないのだと、諦めていました。してみるものです、遠回り」
「ああ。そうだね。私も、そう思う。レイシアに誘われて薬湯を見に行かなかったら、クイーンさんとは知り合わなかっただろうし、ローパーちゃんのことを可愛くしてあげられなかったかもしれない。遠回り、してみるものだね」
 遠回りしたから、ローパーちゃんは自分に自信を持つようになった。クイーンさんも、変わろうと思えるようになった。そして、私は二人の笑顔を見られた。人間だからこそ気づける魔界の良さもあるのだと、知ることができた。
 本当に、遠回りもたまにはしてみるものだ。

「ところで私、休日はいつもウォーキングしているのですけど」
 ローパーちゃん、気まぐれ私を誘ったのではなく、本当に一緒に散歩をしたかったようだ。毎週しているというのなら、好きなのだろう。好きなことを私と一緒にしたかったのだ。なのに、面倒だからとよく考えもせず断ってしまった。反省しよう。
「行くよ、行く。まだ私の知らない道、教えて」
「よろこんで」
 そう言うローパーちゃんは、フリルをつけたまま可愛らしく敬礼した。


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登場人物紹介

花崎宮子 25歳  / ホテル《魔王城》経営隊長


異世界旅行提供会社《ファンタジートラベル》で働く、優秀なツアー部の社員。さまざまな企画を立て計画的に実行、ツアー企画や地域復興などで結果を出しまくっている。という経歴からの左遷をくらった。魔王城で働くがんばりやさん。



魔王 ラティ  / ホテル《魔王城》社長(魔王)


見た目は幼女。人間はRPGにでてくる魔王城を好んでいると知り、泥の魔物や触手をけしかけ楽しませようとした。それが逆効果だったことを、彼女は知らない。家族思いの優しい娘だが、プライドが高く自信家。根拠のない自信を持つ困ったところがある。

新村美咲  / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部所属


宮子の後輩。入社1年目。努力家だけどドジで要領が悪い。胸が大きく、マイペースな性格。ツアー部で、王道的な冒険気分が楽しめる、人気のファンタジー世界を担当している。

井上 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》広告部の先輩


宮子のことを評価している。今回の左遷に反対している。


近藤 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部の先輩


女性を軽視している中年の男。宮子が出世し、女性のくせに自分より上へ行くのが嫌で、左遷させた。社内でもそれなりの立場で、彼に味方している取り巻きが存在。


ローパーちゃん  / ホテル《魔王城》マッサージ・接客担当


見た目がグロい触手。敬語で喋る、真面目で魔王城の委員長的な存在。しかしグロい。

レイシア  / ホテル《魔王城》飲食担当・魔王城カフェ店長


シャイで女の子好きなゾンビ。生前は喪女なメイドで、その頃から魔王の世話をしていた。魔王に蘇生された恩義があるものの、人見知り。緊張すると、ネバネバした緑色の液体を吐く。

スライムくん  / ホテル《魔王城》データ管理・ツイッター中の人


意識高い系のスライム。

ルカ姉  / ホテル《魔王城》交通手段担当


ドラゴン専門のゲイバーに勤めていた繊細なオネエ。本名はシュヴァルツ・デスダーク・キルカイザー・ブラックドラゴン。

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