27:試食会しようぜ

文字数 980文字


 さて翌早朝。
「食事がやっぱり、アレですねぇ」
 美咲はぶっちゃけた。
「味はどうだった?」
「味は、まあ、いいですけどぉ。美味しいって言われても、虫料理を食べたくないって人は多いですよねぇ。そのレベルですよぉ」
 虫料理が好きな人には申し訳ないが、言い得て妙だと思った。
 食事問題は大至急解決する必要があるようだ。
 美咲を駅まで送って行くと、彼女は別れ際に気になることを告げた。
「もう一つ、大切なモノが欠けていたような気がしますぅ」
「大切なモノって?」
 美咲は人差し指を自分の唇に当てて、うーんとなにかを考え、出した結論は。
「私が言わなくても、先輩ならきづけますよぉ」
 美咲はそれ以上のことを説明せず、またなにかあったら呼んでください、とだけ告げて帰っていった。


 そんなわけで、美咲が帰宅後の昼過ぎ。魔王城第一会議室。
 なんだかわからない大切なモノに関しては一旦忘れるとして、食事を作る魔族は見つけなければならない。
 別に料理は人間がしてもいいのだが、私は本当に簡単なものしか作れないので、やはり新しい人材、もとい魔族材は必要だ。

「というわけで、新しいコックを探すか、コックの教育をしようと思う。教育をするにも料理が得意な人は必要なので、結局は人材の確保になるんだけど、誰かアテないかな」
 いつものように、ホワイトボードの前でみんなを見渡す。
「私はレイシアさんを推薦します」
 すると、ローパーちゃんが手(触手だ)を挙げた。
「レイシア?」
 レイシアを見ると、彼女は恥ずかしそうに俯いている。吐いたり赤面したり、忙しいゾンビメイドだ。
「レイシアさんはお昼の弁当を自作しているのです。手の込んだキャラ弁も作れるのですよ」
「へぇ、凄いじゃん。レイシア、接客じゃなくて、料理担当に移らない?」
「あ、あの、でも、レイシアの料理は……趣味レベルで……その」
 当の本人は、ひどく消極的。

 もしかして、見た目は良くては味はイマイチというパターンだろうか。
 レイシアは元々自分に自信を持てないタイプのようなので、彼女の態度からのみ事実を判断することはできない。
 接客を失敗したことに関しても、落ち込んでいたようだし。
「だったら、試食会しようぜ」
 スライムくんが言った。
 これに対して、反対意見は出なかった。



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

花崎宮子 25歳  / ホテル《魔王城》経営隊長


異世界旅行提供会社《ファンタジートラベル》で働く、優秀なツアー部の社員。さまざまな企画を立て計画的に実行、ツアー企画や地域復興などで結果を出しまくっている。という経歴からの左遷をくらった。魔王城で働くがんばりやさん。



魔王 ラティ  / ホテル《魔王城》社長(魔王)


見た目は幼女。人間はRPGにでてくる魔王城を好んでいると知り、泥の魔物や触手をけしかけ楽しませようとした。それが逆効果だったことを、彼女は知らない。家族思いの優しい娘だが、プライドが高く自信家。根拠のない自信を持つ困ったところがある。

新村美咲  / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部所属


宮子の後輩。入社1年目。努力家だけどドジで要領が悪い。胸が大きく、マイペースな性格。ツアー部で、王道的な冒険気分が楽しめる、人気のファンタジー世界を担当している。

井上 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》広告部の先輩


宮子のことを評価している。今回の左遷に反対している。


近藤 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部の先輩


女性を軽視している中年の男。宮子が出世し、女性のくせに自分より上へ行くのが嫌で、左遷させた。社内でもそれなりの立場で、彼に味方している取り巻きが存在。


ローパーちゃん  / ホテル《魔王城》マッサージ・接客担当


見た目がグロい触手。敬語で喋る、真面目で魔王城の委員長的な存在。しかしグロい。

レイシア  / ホテル《魔王城》飲食担当・魔王城カフェ店長


シャイで女の子好きなゾンビ。生前は喪女なメイドで、その頃から魔王の世話をしていた。魔王に蘇生された恩義があるものの、人見知り。緊張すると、ネバネバした緑色の液体を吐く。

スライムくん  / ホテル《魔王城》データ管理・ツイッター中の人


意識高い系のスライム。

ルカ姉  / ホテル《魔王城》交通手段担当


ドラゴン専門のゲイバーに勤めていた繊細なオネエ。本名はシュヴァルツ・デスダーク・キルカイザー・ブラックドラゴン。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み