54:ドラゴンがモテるには

文字数 2,408文字

「大丈夫だよ。私はあなたのこと、怖がったりしない。よろしくね、ルカ姉」
 ルカ姉は安心したように微笑み、言う。
「こちらこそよろしくねん、みやちゃん」
「うん、よろしく!」
 私は笑顔で応じる。
 さて。ドラゴンに協力してほしいと思う私の考えは、こうだ。

 ①大きなゴンドラ的なものを作る。
 ②ドラゴンに背負ってもらう。
 ③城までひとっ飛び。

 しかし、いきなり頼みごとをすることはできない。彼女は繊細だと言っていた。ここですぐに頼み事をすると、“私はルカ姉を利用するために、ウソの笑顔で騙そうとした”という風に取られる可能性がある。繊細故に人との距離をとったのなら、その距離を近づける必要がある。

 つまり。
①まずはルカ姉と打ち解ける。
②互いに信頼できる関係まで持っていく。
③友達として、お願いする。

 という段階を踏んでいくのだ。面倒だが、先走ってルカ姉を警戒させてしまったら、もう終わりだ。
「ねえ、ルカ姉。今私、魔王城をみんなが楽しく過ごせるホテルにするために、魔王ちゃんたちといろいろやっているんだ。カフェとか温泉とかつくったから、よかったらルカ姉も来てみない?」
「アタシを誘うためだけに、わざわざ来たのかしら?」
 やっぱり、裏がないか警戒をしている。
「そうだよ。魔王ちゃんは、みんなが家族だって言ってた。私も、魔王城で働く以上はみんなと仲良くやっていきたい。それなら、引きこもっている女の子がいるのを無視するのは、違うでしょ? せっかく同じ魔王城の仲間なんだもん。ルカ姉とも仲良くしたいな?」
「そう、ね。誘ってくれるのは嬉しいわん。けどん、あなた以外の人間が客として来るのでしょう? アタシの姿を見たら、みんな怖がっちゃうわん」
「そんなことないよ。昔はどうだったか知らないけど、今ではアニメやゲームのおかげで、ドラゴンはカッコいいというイメージが強いし、みんな、ルカ姉に釘付けだよ!」
 ドラゴンはRPGの定番モンスターだが、どういうわけか、他の異世界にはなかなか生息していない。そういう意味でも、ルカ姉の存在は大きい。
 なので、ドラゴンのゲイバーはわりと需要がありそうだ。いやしかし、ゲイバーというのは客を選ぶかもしれない。まあ、それはいいとして。とにかく、ルカ姉に需要があるのは事実だ。
「そうかしらん? けど、あたしが吠えたらみんな怖がるでしょう?」
 吠えなければいいじゃん。と思うのだけれど。
 ドラゴンを見たら、吠えてほしい! と思う客もいるだろう。一度、咆哮は確認しておきたい。
「どんなふうに吠えるの?」
「こんな風によん」
 ルカ姉が口を大きく開ける。ごくり、生唾を飲む私。

「あっは~~~~ん❤」
 ビリビリ。
「うっふ~~~~ん❤❤」
 ゴゴゴゴ。
「いやんばか~~~~ん❤❤❤」
 ルカ姉のセクシーボイスが振動し、壁や地面が振動した。

「どうかしらん?」
 と、ルカ姉がウインクする。
「ちなみになんだけど、当時はどんな格好してたの?」
 私が訊ねると、
「あたしに合うサイズの特注のワンピースよん。リボンも頭につけて、お化粧もしていたわん」
 ワンピースを着て、リボンをつけて、化粧をした巨大なドラゴンが、喘ぎながらウインクをしてくる様を想像する。
「ねえレイシア。私ね、思ったことがあるの」
「レイシアも、思ったことある」
「ルカ姉が怖がられたのって、別の理由なんじゃないかな」
「レイシアも、思った」
 それを本人に指摘するのは、なんというか、酷だ。別にオネエであることは、悪ではない。しかし、受け入れられない人がいるのも事実。それでは、どうしたらいいのだろうか。
「……やっぱり、怖いかしらん?」
 ルカ姉が不安そうに問う。

「う、ううん。怖くないよ? 怖く、ないけど……なんていうのかな。こう、見た目とのギャップ? そう、ギャップが凄すぎて、その……びっくり? うん。驚いちゃう人もいるのかなぁ~~って。ねえ、レイシア?」
「えっ? あっ、はい。あの、レイシアもそう思う、カナ」
「ギャップ? それって、オンナの魅力のことかしらん?」
「ん? あ、ああ……そ、そう。それそれ。ルカ姉は魅力的だけど、それがその、なんていうの? ウブな男性とか子供には刺激的すぎて、まずいかなぁって」
「あら~~。言われてみれば、あたしを怖がったのは、年頃の男の子ばかりだった気もするわん」
「そうでしょ? だからさ、刺激をグレードダウンして、もうすこーしだけ、かっこいい路線にキメるというのはどうかな? たとえば、鎧を着たり……」
「イカツイ格好をするということかしらん?」
「イカツイ鎧かどうかは、デザイン次第だけど、まあそんな感じ」
「ううーん。可愛くない感じがするわねぇ」
 まあ、そうだろう。
 だが、悩み始めた。もう一押だ。
「ルカ姉。今はね、女性にも可愛さだけではなく、強さが求められる時代なんだよ。強くてかっこよくて、守ってくれそうな女性。だけど、おしゃれで可愛さもあり、自分の前では弱いところも見せてくれるような……そんな女性がモテるの」
 ゲームの女性キャラにおいても、儚い系、妹系の人気がありつつ、強いお姉さん系への需要も年々高まり、また母性を求めてバブみなどというワードも生まれている。
 可愛さや母性と強さ・かっこよさは融合できるのだ。
「強さやかっこよさ。そしてかわいさ。繊細さ。そして、母性。それらをあわせ持つ女性がモテるの」
「つまり、魔王様」
 レイシアがなにか呟いたけど、聞こえなかったことにする。
「…………なるほどねん。そーゆーコトなら、着てもいいかしらん。イカツイ鎧ちゃん」
「よし! 問題解決!」
「解決、したかなぁ」
 とレイシア。
「問題が起きたら、その時はレイシア、フォローおねがいね」
「ええぇ」
 
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登場人物紹介

花崎宮子 25歳  / ホテル《魔王城》経営隊長


異世界旅行提供会社《ファンタジートラベル》で働く、優秀なツアー部の社員。さまざまな企画を立て計画的に実行、ツアー企画や地域復興などで結果を出しまくっている。という経歴からの左遷をくらった。魔王城で働くがんばりやさん。



魔王 ラティ  / ホテル《魔王城》社長(魔王)


見た目は幼女。人間はRPGにでてくる魔王城を好んでいると知り、泥の魔物や触手をけしかけ楽しませようとした。それが逆効果だったことを、彼女は知らない。家族思いの優しい娘だが、プライドが高く自信家。根拠のない自信を持つ困ったところがある。

新村美咲  / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部所属


宮子の後輩。入社1年目。努力家だけどドジで要領が悪い。胸が大きく、マイペースな性格。ツアー部で、王道的な冒険気分が楽しめる、人気のファンタジー世界を担当している。

井上 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》広告部の先輩


宮子のことを評価している。今回の左遷に反対している。


近藤 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部の先輩


女性を軽視している中年の男。宮子が出世し、女性のくせに自分より上へ行くのが嫌で、左遷させた。社内でもそれなりの立場で、彼に味方している取り巻きが存在。


ローパーちゃん  / ホテル《魔王城》マッサージ・接客担当


見た目がグロい触手。敬語で喋る、真面目で魔王城の委員長的な存在。しかしグロい。

レイシア  / ホテル《魔王城》飲食担当・魔王城カフェ店長


シャイで女の子好きなゾンビ。生前は喪女なメイドで、その頃から魔王の世話をしていた。魔王に蘇生された恩義があるものの、人見知り。緊張すると、ネバネバした緑色の液体を吐く。

スライムくん  / ホテル《魔王城》データ管理・ツイッター中の人


意識高い系のスライム。

ルカ姉  / ホテル《魔王城》交通手段担当


ドラゴン専門のゲイバーに勤めていた繊細なオネエ。本名はシュヴァルツ・デスダーク・キルカイザー・ブラックドラゴン。

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