56:信用と信頼の問題
文字数 1,568文字
「ここはシンプルに丸太小屋かなぁ。窓をつけて、中に……。そう、中にルカ姉のポスターを貼ろう!」
「ポスター?」
とルカ姉。
「そう。ルカ姉もいろいろなおしゃれしたいでしょ? 普段は鎧でかっこいい一面を見せつつ、でもこんな一面もあるのよ、的な感じで……」
実物をいきなり見せるより、ポスターの方が入りやすいだろうし、ポスターなら一度にたくさんのルカ姉を見せられる。さまざまなルカ姉を見せることで、本来の姿も受け入れやすくさせるという作戦だ。
どのみちお客さんを運んでもらう以上、ルカ姉がみんなの前で話すタイミングは来るだろう。客の前では喋るな、とは言えない。それではルカ姉を笑顔にさせられないからだ。
だから、写真を、ポスターを使うのだ。
「あとはぬいぐるみとか、観葉植物とか、置いてもいいし。内部のデザインはルカ姉のしたいようにしてもいいと思うよ。もちろん、客を乗せる以上、考慮しないといけない面もあるけど」
「そうね。デザインとはよくわからないし、任せるわ。ただ、名前は決めさせてほしいのん」
「名前?」
「特急ルカルカ号。あたしを利用するサービス名は、これがいいわん」
「オッケー。それでいこう。小屋造りもミーサさんにお願いしたいけど、さすがに頼りすぎかなぁ」
そもそもサイズが今までとは異なるうえに、建物となると安全面を考慮した設計図も必要となる。
小屋の作成が可能だとしても、ミーサさんへの負担が大きくなりすぎだ。そうなると、やはりボーナスくらい払ってあげないと不公平な気もしてくる。
とにもかくにも、相談してみないことには始まらない。
「私、またミーサさんのところに行ってくるよ」
「山を降りるなら、あたしが連れて行ってあげるわよん」
「え? でも、私ドラゴンに乗ったことないし」
人が乗っても安全なように、小屋を用意するのだ。小屋のない今、ルカ姉に乗るのは不安だ。
しかし、ルカ姉はウインクした。
「一人や二人くらいなら、あたしが手に乗せて運ぶわん。それなら安心でしょ?」
つまり、手のひらに乗り、落ちないよう指で覆ってくれるということだろうか。ルカ姉を信用していないわけではないが、命を全面的に預けてしまうのは恐ろしい。人間の私がルカ姉に握り潰されたら、一瞬でミンチだ。
嫌なシーンが頭に浮かんだが、私は生唾と共にそれを飲み込む。
これは信用の問題だ。ルカ姉と私の間には、まだ家族と呼べるほどの信頼(・・)関係はないかもしれない。だからこそ、共に仕事を任せ合えるような、信用(・・)出来る関係くらいは築く必要がある。
なにより、ルカ姉は怖がられることを恐れているのだ。実は私が、高所は苦手であることも、言い訳にしかならない。
「それじゃあ、お願い」
私が微笑むと、
「ええ。さ、乗って?」
ルカ姉は嬉しそうに手のひらを地面に置いた。
「レイシアもいい? レイシア、空を飛べないから」
「いいわよん」
レイシアがぱぁっと顔を輝かせた。
ルカ姉の体は硬い鱗に覆われていて、その上からさらにイカツイ鎧を装備をしているわけだけれど、手のひらは人間のそれと同じく柔らかさと温かさを持っていた。私とレイシアが乗ると、ふわり、ルカ姉が木々より高く舞い上がる。
性格と同じく、ルカ姉の手付きは繊細だった。
「わっ、凄い。宮子さん、凄い……」
レイシアはルカ姉の指の隙間から見える、魔界の景色に感嘆の声を漏らした。
不気味に思えた魔界の景色も、高くから見下ろすと、絶景に化ける。色とりどりの山と森。雪原や砂漠や赤い海。海の近くには、村も見える。
さまざまなエリアが混じり合うカオスな魔界は、一望すると芸術のようであった。
「うん。すごいね」
私は頷き、スマホのカメラで景色を撮影した。