06:ローパーちゃん
文字数 1,231文字
きょろきょろと見渡すと、
「とうぁっ」
少女は上から降ってきた。ガサガサと葉の天蓋を突き破り、庭園のタイルに着地する少女。城の窓から飛び降りたのだろうか。城まではまだ、100メートル近くはあるけれど。この脚力、さすがは魔族だ。しかし、よく見ると幼女だった。
黒いマントを羽織り、癖の強い金髪を腰まで伸ばした幼女。頭の上には二本の角。そして、銀色の冠。赤い禍々しい瞳。牙。
「よく来たな愚かな人間どもよ! 我こそが超魔王神シュヴァルツの一粒種! 魔王ラティである! 我が城に踏み入ったからには、生きて帰れると思うなよ!」
幼女が私より平べったい胸を張る。
誤解のないように言っておくが、私にはちゃんと胸がある。サイズについては表記しないが、胸はある。事実だ。
そして、魔王は随分とノリノリである。魔族が人間へ、人間が魔族へ危害を加えることは許されないので、本当に戦いを挑んでくるわけではないはず。あくまで、そういう設定のホテルなのだろう。だってここ、魔王城だし。
見た目が幼女なので、まったく迫力はないのだが。
「うわっ、怖いなぁ。どんなことされちゃうんだろう」
だけど、ここはのってみる。
魔王でも、幼女は幼女。実年齢は知らないが、子供っぽく得意げに笑う。
笑わないとか聞いたが、笑っているではないか、この幼女魔王。
「我が魔王城では、管理局が騒ぐか騒がないかギリギリのラインを攻め、貴様に楽しい恐怖体験を与える」
つまるところ、お化け屋敷的なノリだろうか。
すると彼女の後ろから、赤くて細い何かが這ってくる。ズルズル。ズルズル。まるでミミズみたいな細~い、けれど2,3メートルはありそうな長い体。そして、細長い体から何本も生えている、やっぱり細い物体。触手の生えたミミズ。いや、細い触手をいっぱい生やした、触手?
「ようこそ魔王城へ。私、ローパーです」
ローパーと名乗った触手生命体は、グロテスクな見た目のわりに、可愛らしく甘いボイスをしていた。一体どこの層に需要があるギャップなのか、判然としない。
ぺこり、ローパーが頭――かどうかはわからないが、先端を折り曲げた。お辞儀、なのだろう。可愛い声をしているうえに、礼儀正しい。しかし、見た目はグロテスクだ。しかも、上半身の表面がなんかヌメヌメしている。
ナメクジ――を一瞬彷彿とさせたが、黙っておく。さすがに失礼だろうから。
「さあ、やれローパーよ!」
魔王ちゃんが右の手のひらを私に向けた。
やれってなにを?
嫌な予感がした。そして、残念な事に私の予感はよく的中する。
「いきますね?」
ローパーちゃんはヌメヌメした体で私の腕にまとわりつき、かと思えば首の後に周り、ひんやりヌルヌルぶよぶよな触感で私を不快にさせる。そのまま胸の上を這い、長い体で私の両脚に巻き付く。ぐるり、視界が反転した。
足首を絡め取られ、宙吊りにされたのだ。