32:魔王ちゃんと家族たち

文字数 722文字

 その夜、私の部屋に魔王ちゃんが訪れた。
「宮子」
 魔王ちゃんは前髪を人差し指に絡ませながら、
「ん? 珍しいね、魔王ちゃんが私の部屋に来るなんて」
「私はお前を認めたわけではない」
 いきなり言い訳から入った。
「わけではない……が!」
 それから頬を染めて、視線を横に逃がして、だけど、言う。
「お前のおかげで、レイシアが楽しそうだ。それに関しては、礼を言う」
「家族が大切なんだね」
 魔王ちゃんが私を見た。

「そうだな。大切だ」
 少し驚いたようだったが、すぐにレイシアを想っているのか、顔がほころんだ。
「そっか」
 私も微笑み返す。魔王ちゃんは大切なみんなのことになると、笑ってくれるのだ。みんなを笑顔にさせることが魔王ちゃんの笑顔に繋がり、魔王ちゃんを笑顔にさせることが、みんなの笑顔につながる。
 みんな、想い合っている。本当に、家族だ。さながら魔王ちゃんは、一家の大黒柱と言ったところか。
「要件はそれだけだ」
 顔を赤くさせたまま、去っていく魔王ちゃん。その小さな背中に、私は呼びかけた。
「魔王ちゃん」
「む?」
 振り返る魔王ちゃん。
「おやすみ」
「……ああ、おやすみ」
 もう一度、魔王ちゃんが微笑んでくれた。少しだけ、私も家族として認められたような気がして、嬉しくなった。これが笑顔の魔法というやつらしい。




 この日から、スライムくんのリストは書き換わった。


 レイシア:飲食担当・魔王城カフェ店長
 ローパー:接客担当、触手部隊隊長
 リザード:イラストデザイン隊長
 ミーサ:魔界観光案内所担当・オーナメント創作隊長
 ✝イフリート大納言☆大侍✝:鍛冶屋

 私は変わらず、「経営隊長」だ。

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登場人物紹介

花崎宮子 25歳  / ホテル《魔王城》経営隊長


異世界旅行提供会社《ファンタジートラベル》で働く、優秀なツアー部の社員。さまざまな企画を立て計画的に実行、ツアー企画や地域復興などで結果を出しまくっている。という経歴からの左遷をくらった。魔王城で働くがんばりやさん。



魔王 ラティ  / ホテル《魔王城》社長(魔王)


見た目は幼女。人間はRPGにでてくる魔王城を好んでいると知り、泥の魔物や触手をけしかけ楽しませようとした。それが逆効果だったことを、彼女は知らない。家族思いの優しい娘だが、プライドが高く自信家。根拠のない自信を持つ困ったところがある。

新村美咲  / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部所属


宮子の後輩。入社1年目。努力家だけどドジで要領が悪い。胸が大きく、マイペースな性格。ツアー部で、王道的な冒険気分が楽しめる、人気のファンタジー世界を担当している。

井上 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》広告部の先輩


宮子のことを評価している。今回の左遷に反対している。


近藤 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部の先輩


女性を軽視している中年の男。宮子が出世し、女性のくせに自分より上へ行くのが嫌で、左遷させた。社内でもそれなりの立場で、彼に味方している取り巻きが存在。


ローパーちゃん  / ホテル《魔王城》マッサージ・接客担当


見た目がグロい触手。敬語で喋る、真面目で魔王城の委員長的な存在。しかしグロい。

レイシア  / ホテル《魔王城》飲食担当・魔王城カフェ店長


シャイで女の子好きなゾンビ。生前は喪女なメイドで、その頃から魔王の世話をしていた。魔王に蘇生された恩義があるものの、人見知り。緊張すると、ネバネバした緑色の液体を吐く。

スライムくん  / ホテル《魔王城》データ管理・ツイッター中の人


意識高い系のスライム。

ルカ姉  / ホテル《魔王城》交通手段担当


ドラゴン専門のゲイバーに勤めていた繊細なオネエ。本名はシュヴァルツ・デスダーク・キルカイザー・ブラックドラゴン。

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