32:魔王ちゃんと家族たち
文字数 722文字
「宮子」
魔王ちゃんは前髪を人差し指に絡ませながら、
「ん? 珍しいね、魔王ちゃんが私の部屋に来るなんて」
「私はお前を認めたわけではない」
いきなり言い訳から入った。
「わけではない……が!」
それから頬を染めて、視線を横に逃がして、だけど、言う。
「お前のおかげで、レイシアが楽しそうだ。それに関しては、礼を言う」
「家族が大切なんだね」
魔王ちゃんが私を見た。
「そうだな。大切だ」
少し驚いたようだったが、すぐにレイシアを想っているのか、顔がほころんだ。
「そっか」
私も微笑み返す。魔王ちゃんは大切なみんなのことになると、笑ってくれるのだ。みんなを笑顔にさせることが魔王ちゃんの笑顔に繋がり、魔王ちゃんを笑顔にさせることが、みんなの笑顔につながる。
みんな、想い合っている。本当に、家族だ。さながら魔王ちゃんは、一家の大黒柱と言ったところか。
「要件はそれだけだ」
顔を赤くさせたまま、去っていく魔王ちゃん。その小さな背中に、私は呼びかけた。
「魔王ちゃん」
「む?」
振り返る魔王ちゃん。
「おやすみ」
「……ああ、おやすみ」
もう一度、魔王ちゃんが微笑んでくれた。少しだけ、私も家族として認められたような気がして、嬉しくなった。これが笑顔の魔法というやつらしい。
この日から、スライムくんのリストは書き換わった。
レイシア:飲食担当・魔王城カフェ店長
ローパー:接客担当、触手部隊隊長
リザード:イラストデザイン隊長
ミーサ:魔界観光案内所担当・オーナメント創作隊長
✝イフリート大納言☆大侍✝:鍛冶屋
私は変わらず、「経営隊長」だ。