12:メイドのレイシアさん
文字数 1,429文字
門番であるゴーレムに通されると、庭園の噴水前にて魔王ちゃんが腕組みして立っていた。魔王ちゃんは目つきを鋭くさせて、
「また来たのか。懲りないやつだな」
と怒り半分呆れ半分といったご様子。
「魔王ちゃんに見てほしい資料があるんだよ」
私はスマホで撮影した写真や動画を見せて、【アクアワールド】の素晴らしさと、人気がある理由を説明した。
・街や宿が綺麗で美しい
・クエストという参加型のアトラクションがあり楽しめる
・ポイント交換でもらえる景品が嬉しい
・酒場には美味しい海鮮料理がいっぱい
それが好評である証拠として、【ファンタジートラベル】が公開している人気異世界ランキングのページを開いて、【アクアワールド】が3位になっているところも見せる。それから、コメントページも開き、クエストや海鮮料理の☆5レビューも見せる。
次に、データを踏まえた私の意見。【ホテル魔王城】の改善点。
「やっぱり、全体的にもっと城や道を綺麗にして、名物料理とかも用意した方がいいと思うんだ。イベントもローパーちゃんをけしかけるんじゃなく、こんな感じの参加型アトラクションにしたりしてさ。だってほら、【ホテル魔王城】のレビューページにも、ヌメヌメに対する不満があったよ?」
けれど、魔王ちゃんは目つきを鋭くさせたままだった。
「ここは【アクアワールド】ではなく、【ホテル魔王城】だ。そんなに【アクアワールド】がいいのなら、そっちで働けばよかろう」
それができるのなら、している。
できないから、少しでも【ホテル魔王城】を【アクアワールド】のようにしようとしているのだ。
とは、思っても言わない。
「でもね、魔王ちゃん。経営を成功させるのに、すでに成功している経営方針を参考にするのは、基本的なことじゃないかな」
「……ボクはそう思わない。なぜなら、ここは【ホテル魔王城】だからだ」
ダメだ。まったく考えを変えようとしない。聞いていた以上の頑固者だ。
「それに、お前は【アクアワールド】の本質を理解していない」
「……え?」
「部屋は貸してやるから、一泊したら荷物をまとめて出て行くんだな。レイシア。あとは頼む」
魔王ちゃんが言うと、噴水の陰から小柄な女の子が現れた。年齢は14か15、といったところ。ロングスカートのメイド服をまとった可愛らしい少女だが、肌が青みがかっていて、すこぶる顔色が悪い。まるで死人のようだ。
レイシアと呼ばれたメイドは、背中を丸めた状態でゆっくり私の前までやってきて、声を震わせながら言った。
「おおおおおおお部屋部屋部屋部屋あんなしまままましゅっ」
なんて?
レイシアは薄い胸に両手を当てて深呼吸。依然として震えた声で、言い直した。
「へ、部屋に案内します……ついてきて、ください」
視線は斜め下、私の足元に注がれている。人見知りなのだろうか。魔族なら他にもいるだろうに、そんな娘に案内役をさせなくてもよいものを。
と思ったのだが
「では任せたぞレイシア」
「はいっ! 魔王様!」
魔王ちゃんに言われると、先ほどとは一転して、はっきりした声で、びしーっと背筋を伸ばして敬礼する。その姿に魔王ちゃんはうんうんと頷き、にっこりと微笑んだ。
本当に、仲間には優しい魔王ちゃんだ。部外者の私は、一体どうしたら魔王ちゃんに話を聞いてもらえるのやら。
仕方ない。作戦を練り直そう。