11:クエストという名のアトラクション

文字数 1,532文字

「魔王城や魔界にも観光サイトってあるんですかぁ?」
「どうだったかな」
 スマホを取り出し、検索してみる。あるにはあった。真っ黒い背景に、無駄にカラフルな文字が羅列しただけのサイト。「Enter」という文字をタップすると現れる項目は、

・観光名所
・BBS
・チャット

 上の方には「あなたは999999999人目の訪問者」と表示されている。絶対にいじっている。というか、更新ボタン押しても変化しない。カウント機能すらなかった。
 いつの時代だよ、というような古臭くてセンスの欠片もないサイトである。

「逆に新しいですね、これ」
 私のスマホを覗き込んだ美咲が、物珍しそうな顔をした。言わんとしていることはわかるが、需要はない新しさだ。
「サイトはともかく、ツイッターはくらいはやってもいいかもですねぇ」
「そうだね、考えておくよ」
 ツイッターをやるにしても、宣伝するモノがなければ意味がない。とりあえず、それは後回しだ。
 利用者の気持ちになってみるなら、安くて綺麗で料理の美味しい宿泊施設がいいはずだ。それでいて、その異世界らしさもあったら最高だ。そんな条件で検索し、一番上に出てきたのは【ホテルポセイドン】という宿泊所だった。ウンディーネにポセイドン。まんまだ。

「あー、ここですかぁ。ワンダーサーモンっていう魔法魚が美味しいんですよぉ。日本人観光客に合わせて、刺し身やお寿司にしてだしてくれるんです。隣にある【冒険者の酒場】も魅力的なんですよぉ」
「なんだかすっごく、冒険が始まりそうな酒場だね」
「はじまっちゃうんですよぉ。なんとその酒場では!」
「その酒場では?」
「クエストが受けられちゃうんですぅ~~! わーすごーいぱちぱちぃ」
 美咲が拍手する。

「クエストを模したゲームってこと?」
「そうですそうですぅ。杖や弓のおもちゃでモンスター役の従業員と戦ったり、バルーンの魔法で海底ダンジョンを探索しお宝探しゲームをしたり。冒険者用の衣装レンタルもありますし、クエストをクリアしたらもらえるポイントで、お得なお食事券や宿泊施設の割引券なんかがもらえるんですよぉ」
「なにそれ超おもしろそう!」
「このクエストシステム、ここ以外にもやっているところがあって、場所ごとに割引券の使えるお店が違うんですよぉ。みんな仲良しな【アクアワールド】ですけど、そこは商戦ですよねぇ」
 よく考えられている。美味しい料理や食博施設の割引券なら、誰がもらっても嬉しい。しかも、そのために行うゲームがファンタジーらしく、水の世界的な要素まであるのだから、数ある異世界の中で【アクアワールド】へ来る理由にもなる。
 この要素を魔王城にも取り入れたら、ウケるかもしれない。

「さっそく案内してよ! あ、でも混んでいたら迷惑になっちゃうかな」
「大丈夫ですよぉ。これを参考にして魔王城が盛り上がったら、コラボしましょう。それでウィンウィンの関係ですぅ」
 商売上手な後輩ちゃんである。
「なんか、いろいろありがとね」
「いえいえ。先輩は私のせいで左遷されたんですし、このくらいさせてください」
 そして、いい子だ。もしかしたら私より優秀かもしれないけど、美咲の下でなら働ける。あの魔王ちゃんや近藤なんかよりはずっとマシだ。早く出世して、私を下につかせてくれないだろうか。
 っと、いけないいけない。弱気になっていた。私だって出世するのだ。諦めてはいけない。
 人生を楽しく豊かにするためにはお金がいる。そのために、魔王城を成功させないといけないのだ。
 というわけで、私は美咲のエスコートを受けながら、日が暮れるまでクエストと異世界の珍しい海鮮料理を楽しんだ。

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登場人物紹介

花崎宮子 25歳  / ホテル《魔王城》経営隊長


異世界旅行提供会社《ファンタジートラベル》で働く、優秀なツアー部の社員。さまざまな企画を立て計画的に実行、ツアー企画や地域復興などで結果を出しまくっている。という経歴からの左遷をくらった。魔王城で働くがんばりやさん。



魔王 ラティ  / ホテル《魔王城》社長(魔王)


見た目は幼女。人間はRPGにでてくる魔王城を好んでいると知り、泥の魔物や触手をけしかけ楽しませようとした。それが逆効果だったことを、彼女は知らない。家族思いの優しい娘だが、プライドが高く自信家。根拠のない自信を持つ困ったところがある。

新村美咲  / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部所属


宮子の後輩。入社1年目。努力家だけどドジで要領が悪い。胸が大きく、マイペースな性格。ツアー部で、王道的な冒険気分が楽しめる、人気のファンタジー世界を担当している。

井上 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》広告部の先輩


宮子のことを評価している。今回の左遷に反対している。


近藤 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部の先輩


女性を軽視している中年の男。宮子が出世し、女性のくせに自分より上へ行くのが嫌で、左遷させた。社内でもそれなりの立場で、彼に味方している取り巻きが存在。


ローパーちゃん  / ホテル《魔王城》マッサージ・接客担当


見た目がグロい触手。敬語で喋る、真面目で魔王城の委員長的な存在。しかしグロい。

レイシア  / ホテル《魔王城》飲食担当・魔王城カフェ店長


シャイで女の子好きなゾンビ。生前は喪女なメイドで、その頃から魔王の世話をしていた。魔王に蘇生された恩義があるものの、人見知り。緊張すると、ネバネバした緑色の液体を吐く。

スライムくん  / ホテル《魔王城》データ管理・ツイッター中の人


意識高い系のスライム。

ルカ姉  / ホテル《魔王城》交通手段担当


ドラゴン専門のゲイバーに勤めていた繊細なオネエ。本名はシュヴァルツ・デスダーク・キルカイザー・ブラックドラゴン。

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