69:ホテル魔王城を支援するメリット
文字数 2,107文字
「さらに、アニメなどのコラボカフェを参考に、可愛くて美味しい、女性ウケもしやすいカフェメニューも用意しました。今回、一部メニューを用意していますので、みなさんにも食べてもらおうと思います」
それは、魔王ちゃんに転送魔法で送ってもらったケーキだ。もちろん、レイシアは料理がプレゼンに使われることを知らない。
砂糖菓子の人形で可愛く飾り付けたケーキを、会長を含む全員に食べてもらう。
「ふむ。これはなかなか」
会長にも好評なご様子。
このように、プレゼンを参加型にすることで、飽きさせない、説得力も与える、という効果が見込まれるのだ。
「これまで魔王城が不人気であった、魔王による勘違いしたサービスを改善させ、今紹介した新しいサービスを展開することで、魔王城の人気は回復、上昇しています」
画面をアニメーションで切り替える。
「続きまして、こちらのグラフを御覧ください」
表示させたのは、私が魔王城に入る前と、入った後の入客数・売上データ・レビューの比較だ。半年間客がいなかったこれまでと、ユーチューバー効果もあり客足が増えている今とでは、歴然の差である。
【紅の魔弾】さんが動画で宣伝してくれて、それが高評価であることも、説明した。
ここで、東京支部長が言った。
「魔王城には一定の需要があるのはわかった。だが、それが我が社にどんな利益をもたらす?」
「言うまでもないでしょう。異世界ゲートに支払われる運賃は、
・異世界管理局
・ファンタジートラベル
・そのた(駅の工事費用等)
に割り振られます。魔王城が人気になればなるほど、運賃を多く回収できます」
これも、想定された質問だ。私の説明に合わせ、ホログラムを切り替えていく。
「契約を破棄したしたところで、ゲートの設置と運賃の回収は継続される。問題はなかろう」
と支部長。
「いい指摘ですね。しかし、契約を破棄すればゲートの増量は行わないことを、見落としていませんか? 駅の利用客が増えても、ゲートが小さい渦1つのままだと、【ファンタジートラベル】に苦情が来ますよ」
「むう」
支部長は押し黙った。
「それに、魔界には未開発の雪原エリアもあるんです。ここにテーマパークを建設し、その管理を【ファンタジートラベル】が行うということも可能です。なにせ、魔王城は人手、もとい魔族手不足ですからね」
次に、魔界のマップを表示させる。数秒遅れて、マップの一部が拡大され、雪原エリアの写真に切り替わった。
「ほう」
会長があごひげをいじる。
「魔王城が人気になりたくさんの人を呼び込めれば、建設費なんてあっという間に回収できますよ。魔界は資源の宝庫です」
再び、テーブルを見渡す。反論がないので、はじめに述べた結論へ戻す。
「つまりですね、魔界は急成長を遂げていて、資源が豊富な可能性の塊というわけです。魔王城を支援することは、莫大な利益につながるのですよ」
「待て花崎。魔王は厄介者だと聞く。本当に資源の利用ができるのか?」
ここで、近藤が動いた。ハゲ達磨め、悪あがきを。
「そこで、魔王やその仲間たちと友好的な関係を築いている私ですよ。私なら、許可をとってみせます」
もちろん、テーマパークの内容は私と魔王ちゃん好みにさせてもらうが、それで客にウケるのなら、問題はないはずだ。
おほん、と会長が咳払い。会議室に緊張が走った。
「ひとつ聞く。お前にとって、魔王城とは、魔界とはなんだ?」
「第二の故郷です。楽しく、笑顔で働くのことのできる仲間たち、家族のいる場所です。もちろん、楽しくするだけではなく、みんな仕事には全力です。そんな魔王城と私たちだから、来てくれるお客さんたちのことも、楽しく笑顔にさせることができるのです」
会長はしばらくヒゲをいじっていたが、やがて、言った。
「ふむ。そうか。おもしろい。やってみろ」
「し、しかし。仕事場を故郷だの、仕事を仲間を家族だの、ふざけているとしか」
東京支部長が口にして、近藤がそうだそうだと頷く。
会長は答えた。
「楽しく仕事をすることのなにがわるい。辛く苦しいだけの仕事より、ずっといいではないか。結果も出ているし、これからにも期待できる。問題はなかろう。ワシは面白そうなことが大好きなのじゃ。やってみなさい」
「ありがとうございます!」
私は頭を下げた。
完全勝利だった。顔をあげると、近藤と東京支部長の、悔しそうな顔が傑作だった。
会議が終わるまで、私は休憩室で待つことになった。まっさきに魔王ちゃんへ、次に美咲へ、取り急ぎ結果をLINEで報告する。やがて井上先輩が戻ってきて、言った。
「よかったな、花崎」
「はい!」
「どうだ? 今晩、焼き肉でも奢るぞ?」
「ありがとうございます。ですけど、一刻も早く、魔王ちゃんたちに話したくって」
「そうか。お前の居場所だもんな。なら、今すぐ行ってやれ。再移動の手続きは、俺の方で済ませておく」
「重ね重ね、ありがとうございます」
「ああ! 頑張れよ!」
井上先輩が親指を立てる。私も笑顔で、親指を立てた。