16:魔王ちゃんは勝手にやれと言う

文字数 1,604文字

 魔王ちゃんの部屋は、私の部屋の数倍は広い大広間だった。ピンクのフリルいっぱいな布に覆われた、やたらとファンシーなベッド。そこから魔王ちゃんが現れた。
「話とはなんだ、管理局」
 明らかに不機嫌だ。私を案内し魔王ちゃんを呼んだレイシアは、扉の向こうから顔だけをのぞかせ、様子を伺っている。

「ごめん! 私、魔王ちゃんの気持ち考えてなかった! 魔王城の良さも理解しようとせずに、不人気なところだから、良くないところなんだって、決めつけてた! 故郷を、家族を、おうちを馬鹿にして、本当にごめんなさい!」
 私は勢いよく頭を下げた。
「お、おう……」
 戸惑うような声。
「それで、あのね? 魔王ちゃんが大事に思っている魔王城らしさとか、譲れない部分とか、そういうのを教えてほしいって思うの」
「むぅ?」

「魔王ちゃんは両親や城のみんな、家族と過ごした思い出の魔王城が大好きなんだよね? だけど、やっぱり今のままじゃお客さんは増えない。魔王ちゃんだって、大好きな魔王城をみんなが理解してくれて、愛してくれたら嬉しいよね? そんな風にもっていけるよう、譲らない部分と、変えなければいけない部分を、みんなで話し合っていけたらって思うんだ」
 みんなで。つまり、魔王城にいるみんなの考えをまとめるのだ。
 魔王城を良くするためには、私の意見だけを通してはダメなのだ。魔王ちゃんや他の魔族たちがどう考えているのかを、知っていく必要がある。魔界そのものも、詳しく知る必要がある。
「認めん」
 しかし、魔王ちゃんは言った。

「外から来た人間なんて、もとより信用する気はないのだ」
 やっぱり、魔王ちゃんは両親が魔界を出ていったことで、外の世界にいいイメージを持っていないようだ。魔族にとっての10年は短い。とはいうけれど、それでも10年なのだ。10年も両親に会えなくて、寂しくないはずがない。
 すると、レイシアが歩いてきて、言った。
「レイシアは、宮子さんと一緒にやっていきたい」
「れ、レイシア?」
 魔王ちゃんが驚いて、レイシアを見る。
「私も、同意見です」
 気づけば、ローパーちゃんも部屋に入ってくる。
「ローパー。お前まで」
「すみません、魔王様。魔王様の気持ちもわかりますが、今のままでは魔王様だって、辛いだけです。この【ホテル魔王城】を昔のように、いえ、昔以上に繁盛させれば、きっとシュヴァルツ様と奥様も、戻ってこられるはずです。私は魔王様の笑顔が見たいのです。チャンスが有るのなら、賭けてみたいと思います」

「しかしだな」
「宮子さんは、魔王様の話も聞こうとしているから。今までの管理局の人とは、違うって思います。宮子さんに賭けてみたいって、レイシアは思うんです」
 レイシアが言った。
「ここはボクとお前たちの家で、ボクたちは家族だ」
「ですが、今はホテルです。人間を相手に営業をするホテルです。人間の意見を取り入れるのは、理にかなっています」
 ローパーちゃんが言う。
「…………なら、勝手にしろ。ボクは協力しない。お前たちでやるんだな。どうせ、失敗するに決まっている」
 そう言うと、魔王ちゃんはそっぽをむいた。
「ありがとう、魔王ちゃん」
「む?」
 魔王ちゃんが振り向いた。
「今、許可くれたよね?」
「え? あ、ああ……」
「ならそうするね。絶対に魔王ちゃんのことも笑顔にさせるから!」
 私が微笑むと、
「ふん」
 魔王ちゃんは再びそっぽを向いた。つまり、私を一応は認めてくれたということだ。

「よし! そうと決まれば! ローパーちゃん! レイシア! さっそく、会議をしよう!」
「了解です。では会議室に案内します」
「レイシアは、ほかに参加できる方を、探します」
 レイシアとローパーちゃんが部屋を飛び出していく。私はローパーちゃんの後を追いかける。とりあえず、一歩前進だ。


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登場人物紹介

花崎宮子 25歳  / ホテル《魔王城》経営隊長


異世界旅行提供会社《ファンタジートラベル》で働く、優秀なツアー部の社員。さまざまな企画を立て計画的に実行、ツアー企画や地域復興などで結果を出しまくっている。という経歴からの左遷をくらった。魔王城で働くがんばりやさん。



魔王 ラティ  / ホテル《魔王城》社長(魔王)


見た目は幼女。人間はRPGにでてくる魔王城を好んでいると知り、泥の魔物や触手をけしかけ楽しませようとした。それが逆効果だったことを、彼女は知らない。家族思いの優しい娘だが、プライドが高く自信家。根拠のない自信を持つ困ったところがある。

新村美咲  / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部所属


宮子の後輩。入社1年目。努力家だけどドジで要領が悪い。胸が大きく、マイペースな性格。ツアー部で、王道的な冒険気分が楽しめる、人気のファンタジー世界を担当している。

井上 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》広告部の先輩


宮子のことを評価している。今回の左遷に反対している。


近藤 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部の先輩


女性を軽視している中年の男。宮子が出世し、女性のくせに自分より上へ行くのが嫌で、左遷させた。社内でもそれなりの立場で、彼に味方している取り巻きが存在。


ローパーちゃん  / ホテル《魔王城》マッサージ・接客担当


見た目がグロい触手。敬語で喋る、真面目で魔王城の委員長的な存在。しかしグロい。

レイシア  / ホテル《魔王城》飲食担当・魔王城カフェ店長


シャイで女の子好きなゾンビ。生前は喪女なメイドで、その頃から魔王の世話をしていた。魔王に蘇生された恩義があるものの、人見知り。緊張すると、ネバネバした緑色の液体を吐く。

スライムくん  / ホテル《魔王城》データ管理・ツイッター中の人


意識高い系のスライム。

ルカ姉  / ホテル《魔王城》交通手段担当


ドラゴン専門のゲイバーに勤めていた繊細なオネエ。本名はシュヴァルツ・デスダーク・キルカイザー・ブラックドラゴン。

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