16:魔王ちゃんは勝手にやれと言う
文字数 1,604文字
「話とはなんだ、管理局」
明らかに不機嫌だ。私を案内し魔王ちゃんを呼んだレイシアは、扉の向こうから顔だけをのぞかせ、様子を伺っている。
「ごめん! 私、魔王ちゃんの気持ち考えてなかった! 魔王城の良さも理解しようとせずに、不人気なところだから、良くないところなんだって、決めつけてた! 故郷を、家族を、おうちを馬鹿にして、本当にごめんなさい!」
私は勢いよく頭を下げた。
「お、おう……」
戸惑うような声。
「それで、あのね? 魔王ちゃんが大事に思っている魔王城らしさとか、譲れない部分とか、そういうのを教えてほしいって思うの」
「むぅ?」
「魔王ちゃんは両親や城のみんな、家族と過ごした思い出の魔王城が大好きなんだよね? だけど、やっぱり今のままじゃお客さんは増えない。魔王ちゃんだって、大好きな魔王城をみんなが理解してくれて、愛してくれたら嬉しいよね? そんな風にもっていけるよう、譲らない部分と、変えなければいけない部分を、みんなで話し合っていけたらって思うんだ」
みんなで。つまり、魔王城にいるみんなの考えをまとめるのだ。
魔王城を良くするためには、私の意見だけを通してはダメなのだ。魔王ちゃんや他の魔族たちがどう考えているのかを、知っていく必要がある。魔界そのものも、詳しく知る必要がある。
「認めん」
しかし、魔王ちゃんは言った。
「外から来た人間なんて、もとより信用する気はないのだ」
やっぱり、魔王ちゃんは両親が魔界を出ていったことで、外の世界にいいイメージを持っていないようだ。魔族にとっての10年は短い。とはいうけれど、それでも10年なのだ。10年も両親に会えなくて、寂しくないはずがない。
すると、レイシアが歩いてきて、言った。
「レイシアは、宮子さんと一緒にやっていきたい」
「れ、レイシア?」
魔王ちゃんが驚いて、レイシアを見る。
「私も、同意見です」
気づけば、ローパーちゃんも部屋に入ってくる。
「ローパー。お前まで」
「すみません、魔王様。魔王様の気持ちもわかりますが、今のままでは魔王様だって、辛いだけです。この【ホテル魔王城】を昔のように、いえ、昔以上に繁盛させれば、きっとシュヴァルツ様と奥様も、戻ってこられるはずです。私は魔王様の笑顔が見たいのです。チャンスが有るのなら、賭けてみたいと思います」
「しかしだな」
「宮子さんは、魔王様の話も聞こうとしているから。今までの管理局の人とは、違うって思います。宮子さんに賭けてみたいって、レイシアは思うんです」
レイシアが言った。
「ここはボクとお前たちの家で、ボクたちは家族だ」
「ですが、今はホテルです。人間を相手に営業をするホテルです。人間の意見を取り入れるのは、理にかなっています」
ローパーちゃんが言う。
「…………なら、勝手にしろ。ボクは協力しない。お前たちでやるんだな。どうせ、失敗するに決まっている」
そう言うと、魔王ちゃんはそっぽをむいた。
「ありがとう、魔王ちゃん」
「む?」
魔王ちゃんが振り向いた。
「今、許可くれたよね?」
「え? あ、ああ……」
「ならそうするね。絶対に魔王ちゃんのことも笑顔にさせるから!」
私が微笑むと、
「ふん」
魔王ちゃんは再びそっぽを向いた。つまり、私を一応は認めてくれたということだ。
「よし! そうと決まれば! ローパーちゃん! レイシア! さっそく、会議をしよう!」
「了解です。では会議室に案内します」
「レイシアは、ほかに参加できる方を、探します」
レイシアとローパーちゃんが部屋を飛び出していく。私はローパーちゃんの後を追いかける。とりあえず、一歩前進だ。