31:魔王様にも笑顔でいてほしい

文字数 944文字

 そんなレイシアの笑顔を、スライムくんは見逃さなかった。
 ツイッターにレイシアの写真やカフェのメニュー、店内の様子をアップしたら、オーナメントも好評になっていた。
 それをミーサに伝えたら、売れないからものづくりを仕事にするのは諦めていたけど、やってみてよかった、ありがとうと言われる。

「何事もやってみるものッスねぇ」
 と言いながら、ここにも笑顔が生まれた。
「正直、あたしは初めて宮子さんに会った時、いい印象は持ってなかったンスよ。前に来た管理局の人は、自分の意見だけを通そうとして、魔王様を傷つけたッスからね。魔王様が意地でも意見を変えないのは、そういう理由もあるッス」
 とミーサさん。
「私も、レイシアに言われるまでは気づけなかったよ」
「だけど、気づいてくれたじゃないッスか。今じゃみんなが、宮子さんを信頼しているッス。本当はみんな、今の魔王城をどうにかしたい、魔王様に笑顔になってほしい、そう思っているんスよ」
 魔王ちゃん、随分と愛されているようだ。
「このまま新しいことであたしたちが変わっていけば、魔王様もきっと新しいことを受け入れるようになるかもしれないッスね」
「ミーサさんは魔王ちゃんのこと、好きなんだね?」
「そりゃそうッスよ。魔王様はあたしらみんなの誕生日をちゃんと覚えていて、プレゼントをくれるッス。高いものではなくても、その気持ちが嬉しいンスよね」
 魔王ちゃんもまた、みんなを笑顔にさせる大切さを知っていたのだ。ただ、勘違いもあったせいで、それが客にはうまく向いていないだけで。
「宮子さん。あたしらの多くは、魔王様や魔王様のご両親であるシュヴァルツ様に、大戦時代命を救われたり、行き場をなくしているところで拾われたりしているッス。だから、魔王様に対する感謝や尊敬の気持ちが前に出すぎてしまうッス。だけど、宮子さんなら、魔王様に堂々と意見することができる。その上で、魔王様やあたしたちのことも考えてくれている。そんな宮子さんに、魔王様を笑顔にさせてほしいッス」
「もちろんだよ。お客さんが笑顔で過ごせるホテルにするには、まず従業員の私たちが笑顔にならないとだからね」
「つまり、笑顔の魔法ッスね」
 笑顔の魔法。いい響きだな、と私は思った。


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登場人物紹介

花崎宮子 25歳  / ホテル《魔王城》経営隊長


異世界旅行提供会社《ファンタジートラベル》で働く、優秀なツアー部の社員。さまざまな企画を立て計画的に実行、ツアー企画や地域復興などで結果を出しまくっている。という経歴からの左遷をくらった。魔王城で働くがんばりやさん。



魔王 ラティ  / ホテル《魔王城》社長(魔王)


見た目は幼女。人間はRPGにでてくる魔王城を好んでいると知り、泥の魔物や触手をけしかけ楽しませようとした。それが逆効果だったことを、彼女は知らない。家族思いの優しい娘だが、プライドが高く自信家。根拠のない自信を持つ困ったところがある。

新村美咲  / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部所属


宮子の後輩。入社1年目。努力家だけどドジで要領が悪い。胸が大きく、マイペースな性格。ツアー部で、王道的な冒険気分が楽しめる、人気のファンタジー世界を担当している。

井上 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》広告部の先輩


宮子のことを評価している。今回の左遷に反対している。


近藤 / 異世界旅行提供会社 《ファンタジートラベル》ツアー部の先輩


女性を軽視している中年の男。宮子が出世し、女性のくせに自分より上へ行くのが嫌で、左遷させた。社内でもそれなりの立場で、彼に味方している取り巻きが存在。


ローパーちゃん  / ホテル《魔王城》マッサージ・接客担当


見た目がグロい触手。敬語で喋る、真面目で魔王城の委員長的な存在。しかしグロい。

レイシア  / ホテル《魔王城》飲食担当・魔王城カフェ店長


シャイで女の子好きなゾンビ。生前は喪女なメイドで、その頃から魔王の世話をしていた。魔王に蘇生された恩義があるものの、人見知り。緊張すると、ネバネバした緑色の液体を吐く。

スライムくん  / ホテル《魔王城》データ管理・ツイッター中の人


意識高い系のスライム。

ルカ姉  / ホテル《魔王城》交通手段担当


ドラゴン専門のゲイバーに勤めていた繊細なオネエ。本名はシュヴァルツ・デスダーク・キルカイザー・ブラックドラゴン。

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