15、PCショップ『黄昏』

文字数 1,033文字

 校門を出て、いつもとは反対に右折して歩く。
 大きな通りの向こう側には、市立病院があった。もしかすると、父はここに勤務しているのかもしれない。そんなことを思いながら最初の細道を右折。
 メバチ商店街の南口が見えてきたあたりで、左手のビル1階と示された通り進むと、確かにPCショップ『黄昏』はあった。
 しかし、遠目ではPCショップだとはわからない店構えに衝撃を受ける。さすが、女子が勧めるPCショップだけある。『黄昏』という店名からも普通のPCショップではないだろう予感はしていたが、まさかロッジ風に細い丸太が積まれたような外装で出迎えられるとは。
 とにかく、周辺の古びた店とは一線を画していた。
 PCショップに入店するのに緊張したのは初めてだった。
 ドアに掛けてあるベルが鳴ると同時に、「いらっしゃいませ」と、店の奥から声が聞こえたが、店主の姿は見えず。そして、早々に前言撤回しなければならない。
 スッキリした外観からは想像できないほど店内は一般的なPCショップよりもカオスだった。足元には店長おすすめの新商品を紹介するPOPが貼り付けられていたし、頭上にも目の高さにも様々なポスターやチラシが吊るされていたり垂らされていたり。客の視線をすべて奪う作戦なのかもしれない。だが、あまりの情報量に圧倒されるばかりで、肝心の商品内容が入ってこない。
 オタクを寄せ付けない外観とは裏腹に、ジャンク屋そのものだった。
 入口から半時計周りに、中古のノートPCとその周辺機器、自転車用品に防犯用品、LED投光器や電球、多種多様なトランジスタにボルトとナット、電子回路基板にバイオメタルファイバーのマイクロコイルなど細かいもの、携帯バッテリーから携帯画面の強化フィルムまで取り揃っていた。価格はネットと比べるとやや割高だが、この規模の店にしては企業努力が感じられる。また、どのノートPCの液晶にも美麗な蜂の写真が写っているのが面白かった。
 十五分ほど店にいたが、一向に店主は姿を見せない。
 放っておかれるのは好都合なので、ひらすら周辺パーツを物色。結局、清算も今流行りのセルフレジだったので店主と直接話すことはなかった。ただ、カゴをセルフレジに置いている間、奥の部屋からエリカと同じ明るい髪色のポニーテールに白いTシャツ、ジーパンとラフな服装の女店主が新聞を読んでいたのが見えた。
 女性が経営するPCショップ『黄昏』、品揃えも看板に偽りなし。心の中で評価した。
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登場人物紹介

◆鬼月丹司


芽八市に引っ越してきた中学二年生。

PCと散歩が趣味。

大らかで誰とでも打ち解ける性格。


◆美星

(イラスト/ちすお様)


丹司が家の近所で出会った浴衣姿の

ミステリアスな少女。

猫のグージーと暮らしている。

人目を極端に避けようとする。

◆グージー

(イラスト/高橋直樹様)


美星といつもいるキジ白猫。

◆黄賀エリカ

(イラスト/ちすお様)


生徒会長。身長と胸のサイズを気にしている。

昼間は屍のように机に突っ伏しているが、

放課後になると、生徒会の仕事に活発に取り組む。

美麗な容姿に似合わず男っぽい口調。


◆右京ほたる

(イラスト/ちすお様)


本業は巫女。

冷静沈着で、積極的に人とかかわりを持たない。

冷ややかな口調だが、けっして不機嫌なわけでない。


◆工藤乃瑛琉

(イラスト/ちすお様)


童顔の容姿に似合わずグラマラス。

ふわふわとした物言いで、

心を読み取りづらい。

虚弱体質で不登校がちのようだが・・・。

◆兵頭新之助


裏生徒会長。

当初は丹司に対して高圧的な態度で

接していたが、丹司のあっけらかんとした

性格に気圧され、徐々に仲を深めてゆく。

実は、仲間思い。


◆相沢真澄


裏生徒会メンバーのひとり。

理知的で物静かだが、

意見はハッキリと口にする。

親が町一番の金持ち。

◆石井悠善


通称石井ちゃん。

裏生徒会メンバーのひとり。

兵頭を心酔し、腰ぎんちゃくのように

兵頭と行動を共にする。


◆マサヤ伯父さん


市街に住む丹司の伯父。

中学の技術の先生。

仕事にのめり込む丹司の父を心配する。

◆キツネザビ


担任の先生。

口が悪く特に転校生の丹司に

冷たい態度をとる。

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