22、リセット
文字数 1,055文字
結局、ソファーでうたた寝をしてしまい、次に目を開けた時は朝の五時を過ぎていた。
ちょうど玄関から物音が聞こえた。
すっと立ち上がり、父を出迎える。
純粋な気持ちというよりは、昨夜のことが気がかりだったからだが。
「父さん、おかえり」
「ああ、起こしちゃったか」
そこには、大手術を終えて帰ってきたかのような疲労を顔ににじませた父がいた。
僕にはその一言だけ告げると、父はすぐに風呂場へと直行した。
入浴を終えて出てくるまで僕は、険しい顔をしてリビングで待っていた。
「夏のシャワーは爽快だな」
父の楽観的な言葉にどこかムッとした。
「例大祭が楽しみで眠れなかったのか?」
浴室からタオルを肩に掛けて現れた父は、そんなのんきな発言を続ける。
「そんなことより、今までずっと何してたの?」
仏頂面で尋ねる。
「昔から付き合いのある帝王貝細工と一緒に仕事をしていたんだよ。明日は例大祭だろ? 大人も大忙しだ」
冷蔵庫から取り出したウーロン茶とチーズをつまみながら、父は破願した。
すっかり父の口周りの髭面は定着しつつあった。
「父さんは医者なのに、なんで神主さんとそんなに仕事をしてるんだよ」
こちらの苛立ちがようやく伝わったのか、父は僕にチーズを渡して機嫌を取ろうとしてきた。
「はぐらかすなよ」
伸ばしてきた父の手を退けながら言った。
「芽八では、信仰が生きてる。帝王貝細工はこの町では神様のようなものだ。彼の病状があまり芳しくない。それで、私がついて回ってるんだ。納得したか?」
神妙な語り口につられて僕も声音を小さくした。
「長くないの?」
「そうだな」
父は部屋の時計を見てから、「もう寝なさい。夜は長いぞ」と言った。
まだまだ聞きたいことはあったが、今日はここで敢えてやめておいた。
夏休みに入ってからあまりにも非日常的なことが続いた。
それゆえ、知らず知らずのうちに自分は人間不信に陥ってたのかもしれない。
いつしか、父にまで疑惑の目を向けるようになっていた。父もある意味、僕と同じヨソモノなのだから敵ではない。そう自分に言い聞かせる。
「父さん、おやすみ」
久しぶりに優しい言葉が出た。
「ああ、おやすみ。明日、楽しみだな」
「うん」
部屋に戻り、携帯を充電器に挿してから消灯した。
夢は見なかった。
例大祭に向けて清い心を持てるよう前向きな気持ちの表れなのかもしれないし、考え事が多すぎて単に疲れているだけかもしれない。
ちょうど玄関から物音が聞こえた。
すっと立ち上がり、父を出迎える。
純粋な気持ちというよりは、昨夜のことが気がかりだったからだが。
「父さん、おかえり」
「ああ、起こしちゃったか」
そこには、大手術を終えて帰ってきたかのような疲労を顔ににじませた父がいた。
僕にはその一言だけ告げると、父はすぐに風呂場へと直行した。
入浴を終えて出てくるまで僕は、険しい顔をしてリビングで待っていた。
「夏のシャワーは爽快だな」
父の楽観的な言葉にどこかムッとした。
「例大祭が楽しみで眠れなかったのか?」
浴室からタオルを肩に掛けて現れた父は、そんなのんきな発言を続ける。
「そんなことより、今までずっと何してたの?」
仏頂面で尋ねる。
「昔から付き合いのある帝王貝細工と一緒に仕事をしていたんだよ。明日は例大祭だろ? 大人も大忙しだ」
冷蔵庫から取り出したウーロン茶とチーズをつまみながら、父は破願した。
すっかり父の口周りの髭面は定着しつつあった。
「父さんは医者なのに、なんで神主さんとそんなに仕事をしてるんだよ」
こちらの苛立ちがようやく伝わったのか、父は僕にチーズを渡して機嫌を取ろうとしてきた。
「はぐらかすなよ」
伸ばしてきた父の手を退けながら言った。
「芽八では、信仰が生きてる。帝王貝細工はこの町では神様のようなものだ。彼の病状があまり芳しくない。それで、私がついて回ってるんだ。納得したか?」
神妙な語り口につられて僕も声音を小さくした。
「長くないの?」
「そうだな」
父は部屋の時計を見てから、「もう寝なさい。夜は長いぞ」と言った。
まだまだ聞きたいことはあったが、今日はここで敢えてやめておいた。
夏休みに入ってからあまりにも非日常的なことが続いた。
それゆえ、知らず知らずのうちに自分は人間不信に陥ってたのかもしれない。
いつしか、父にまで疑惑の目を向けるようになっていた。父もある意味、僕と同じヨソモノなのだから敵ではない。そう自分に言い聞かせる。
「父さん、おやすみ」
久しぶりに優しい言葉が出た。
「ああ、おやすみ。明日、楽しみだな」
「うん」
部屋に戻り、携帯を充電器に挿してから消灯した。
夢は見なかった。
例大祭に向けて清い心を持てるよう前向きな気持ちの表れなのかもしれないし、考え事が多すぎて単に疲れているだけかもしれない。