28、道隆の生い立ち

文字数 778文字

美星の存在を知る者は数人に限られていた。中でも、女蜂神社で巫女として働いた後、帝王貝細工の右腕となって働いた右京蓮花(うきょうれんげ)は、美星を我が子のように可愛がっていた。いや、はたから見るとあれは、身寄りのない子を可愛がる自分はたいそう優しいというイメージを帝王貝細工に刷り込んだに過ぎない。道隆は鈍感な男だった。彼女の一方的な愛情に気づいていなかったのだ。とは言え、一児の人妻なのだから無理もない。
 その後も定期的に僕は女蜂神社に顔を出し、少女の様子をうかがった。長年の経過観察で、紫外線にとても弱く、早朝や夕方以降でないと活発に動けない体質と判明。
「まるで、吸血鬼のようだよ」 
 嬉しそうに語る親友。
 この時、僕は誓いを立てた。
「君のおかげで僕はこうして医者になれた。だから、僕は君の幸福を全面的に応援したい。どんな歪んだ形だろうと、その決意は変わらない」
 親友は瞳を潤ませた。
「もういいんだよ。親が背負った多額の借金は、樹のせいじゃない。それに、樹に大学を中退されると、ほら、私が退屈になるから。それに、一緒にあの時は丸一日泣いてくれたじゃないか」
 ---あの日。
 初めて惚れた女と付き合い、すぐに婚約をした道隆。
 彼は、おじいちゃんおばあちゃんっ子だった。両親が若くして交通事故に遭ったことも関係している。祖父母は彼の結婚報告をとても喜んでくれたという。半年も経たずに妊娠が発覚し、道隆の人生は持ち返したように見えた。
 しかし、神は残酷にも彼に大きな試練を与える。出産予定の日、赤子は窒息死、母親は大量出血で命を落としてしまったのだ。だからこそ、少女の出現は神格化されたのだろう。
いや、もしかすると本当にこの神社の神なのかもしれない。月日が経つにつれて、自然と彼女の存在を受け入れられるようになった。
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登場人物紹介

◆鬼月丹司


芽八市に引っ越してきた中学二年生。

PCと散歩が趣味。

大らかで誰とでも打ち解ける性格。


◆美星

(イラスト/ちすお様)


丹司が家の近所で出会った浴衣姿の

ミステリアスな少女。

猫のグージーと暮らしている。

人目を極端に避けようとする。

◆グージー

(イラスト/高橋直樹様)


美星といつもいるキジ白猫。

◆黄賀エリカ

(イラスト/ちすお様)


生徒会長。身長と胸のサイズを気にしている。

昼間は屍のように机に突っ伏しているが、

放課後になると、生徒会の仕事に活発に取り組む。

美麗な容姿に似合わず男っぽい口調。


◆右京ほたる

(イラスト/ちすお様)


本業は巫女。

冷静沈着で、積極的に人とかかわりを持たない。

冷ややかな口調だが、けっして不機嫌なわけでない。


◆工藤乃瑛琉

(イラスト/ちすお様)


童顔の容姿に似合わずグラマラス。

ふわふわとした物言いで、

心を読み取りづらい。

虚弱体質で不登校がちのようだが・・・。

◆兵頭新之助


裏生徒会長。

当初は丹司に対して高圧的な態度で

接していたが、丹司のあっけらかんとした

性格に気圧され、徐々に仲を深めてゆく。

実は、仲間思い。


◆相沢真澄


裏生徒会メンバーのひとり。

理知的で物静かだが、

意見はハッキリと口にする。

親が町一番の金持ち。

◆石井悠善


通称石井ちゃん。

裏生徒会メンバーのひとり。

兵頭を心酔し、腰ぎんちゃくのように

兵頭と行動を共にする。


◆マサヤ伯父さん


市街に住む丹司の伯父。

中学の技術の先生。

仕事にのめり込む丹司の父を心配する。

◆キツネザビ


担任の先生。

口が悪く特に転校生の丹司に

冷たい態度をとる。

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