31、仲間

文字数 904文字

 どうやら洞穴は、神社の地下に掘られた場所のようだった。真正面に本殿の裏側が見える。
 林と呼ぶには範囲が小さいが、芝生を歩いて境内へと入った。
 僕が拘束されたことで祭りが中止になっていたらと、一瞬、不安がちらついたが、どうやら杞憂に終わりそうだ。
 本殿を横切り、浴衣姿の市民で賑わう境内を通り抜けて裏口から出ようとしたその時、後ろから肩を叩かれた。振り返ると、エリカ、兵頭、乃瑛琉、石井、ビーネの五人がいた。この場に、ほたるが不在なのは理解できたが、相沢の姿がないのは気がかりだった。
「丹司ぃぃぃぃ! 心配したぞーコラ」
 兵頭は、唇を震わせながら僕の髪をもしゃもしゃと撫で繰り回してきた。
「やっぱり兵頭は、情に厚い男なんだな」
 仲間たちの温かい笑い声が心地よく取り囲んだ。
「少年! おまえは、顔に似合わず暴走するやつだから心配したぞ。PCショップ黄昏で、もっと散財してもらおうと思ってたんだからな。それが達成されるまでは、私の前から無断で消えることなんて、できないんだからな!」
 エリカらしい心配の仕方に思わずぐっときてしまい、僕は指で鼻をさすった。
「悪かった、ほんと」
「家族で問題が起こった時は、乃瑛琉も協力する!」
 乃瑛琉が家族の二文字を口にすると、他の誰よりも深い意味を持つ。その優しさが心によく沁みた。
「父上とは、ちゃんと話せたのか?」
 エリカが単刀直入に訊く。
「ああ。父なりの考えがあってやったことだっていうのは分かった。でも、今後、家族で話し合って落としどころを見つけていくつもり」
「俺たちにできることは、あんまないかもしれないけどよ。まぁ頼れよ。たこ焼き奢ってくれればいつでも良いからよ」
 石井ちゃんらしい発言がまた聞けたことは、素直に喜びへと繋がった。
「やだやだー。辛気臭いのキラーイ。それより、メインイベントが始まっちゃうヨーン」
「兄者は雰囲気ぶち壊しだな」
 エリカはビーネを窘めた。
「ま、でも、これを見ないことには終われないしな! 行こっか」
 先頭を切って大股に歩くエリカに次いで、僕たち五人もまた坂の方へ下りて異形のパレードを待つことにした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

◆鬼月丹司


芽八市に引っ越してきた中学二年生。

PCと散歩が趣味。

大らかで誰とでも打ち解ける性格。


◆美星

(イラスト/ちすお様)


丹司が家の近所で出会った浴衣姿の

ミステリアスな少女。

猫のグージーと暮らしている。

人目を極端に避けようとする。

◆グージー

(イラスト/高橋直樹様)


美星といつもいるキジ白猫。

◆黄賀エリカ

(イラスト/ちすお様)


生徒会長。身長と胸のサイズを気にしている。

昼間は屍のように机に突っ伏しているが、

放課後になると、生徒会の仕事に活発に取り組む。

美麗な容姿に似合わず男っぽい口調。


◆右京ほたる

(イラスト/ちすお様)


本業は巫女。

冷静沈着で、積極的に人とかかわりを持たない。

冷ややかな口調だが、けっして不機嫌なわけでない。


◆工藤乃瑛琉

(イラスト/ちすお様)


童顔の容姿に似合わずグラマラス。

ふわふわとした物言いで、

心を読み取りづらい。

虚弱体質で不登校がちのようだが・・・。

◆兵頭新之助


裏生徒会長。

当初は丹司に対して高圧的な態度で

接していたが、丹司のあっけらかんとした

性格に気圧され、徐々に仲を深めてゆく。

実は、仲間思い。


◆相沢真澄


裏生徒会メンバーのひとり。

理知的で物静かだが、

意見はハッキリと口にする。

親が町一番の金持ち。

◆石井悠善


通称石井ちゃん。

裏生徒会メンバーのひとり。

兵頭を心酔し、腰ぎんちゃくのように

兵頭と行動を共にする。


◆マサヤ伯父さん


市街に住む丹司の伯父。

中学の技術の先生。

仕事にのめり込む丹司の父を心配する。

◆キツネザビ


担任の先生。

口が悪く特に転校生の丹司に

冷たい態度をとる。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み