25、駅とサイレン

文字数 1,058文字

 一日で海水浴へ行ったときと変わらないくらい焼けた。
 起きてすぐ、浴槽でヒリヒリする肌に冷水を浴びせたが既に時遅し。マサヤ伯父さんの最寄り駅到着予定時刻まで十分を切っていた。
 慌てて支度をして家を飛び出す。
 しかし、最寄り駅とは言え西芽八駅を利用したこともなければ、芽八市の路面電車をまだ利用したことはなかった。道に迷ってしまい、この時点で5分のロス。
 携帯を見るとメールと電話の着信があった。
 謝る暇があったらナビを見て駆けつけた方が早いと考えたので、到着まで内容を気に掛けなかった。
 最後の信号を渡れば西芽八駅といったところまでで14分もロスしてしまっていた。謝罪の言葉をあれこれルービックキューブのごとく脳内で組み立てながら信号が変わるのを待つ。
 とその時、二台の救急車が信号を無視して駅の前に立て続けに停車した。
 こんなこぢんまりとした駅に不釣り合いなサイレンに胸騒ぎがした。
 マサヤ伯父さんじゃないよね。
違うよね?まさかね?
 信号は青になったが、前進する足が震えていた。口が変に乾く。
 僕は何を不安に感じているのだろう。
 それより今日は、マサヤ伯父さんと芽八市について徹底的に論じ合うんじゃないか。強い気持ちを持とうとすればするほど、鼓動は高鳴ってゆく。
 おそるおそる携帯を取り出し、「今着いたよ」とメールを送信した。
が、返信はない。
 電池が切れてしまったのだろうか。
 そういえば、 「自分は化石みたいな携帯を使ってるから電池がすぐになくなるんだ。そろそろ機種変しなきゃとは思ってるんだが、愛着が湧いてしまって決心がつかないんだよ」なんてぼやいていたっけ。
 マサヤ伯父さんのことだから、おそらくまだ機種変していないだろう。
 ふと、改札から出てきた救急隊がふたり担架に乗せた怪我人を連れて出てきた。
 周囲に野次馬が集まってきた。
 僕はそこへ行く必要はない。
 返信がないのは、お腹を壊してトイレにでも駆け込んでるのか?
 どう自分を落ち着かせようと努めても、人だかりの方へ足は向かっていた。
 「どけてください、車が出ますから」
 救急隊員の怒声が響く。
直後、体が硬直した。救急車に乗せられる男性に、どこか見覚えがあったのだ。
マサヤ伯父さんだ。
 すぐに実感は湧かなかったが、サイレンの音が徐々に小さくなってゆく。
足の力が抜け、その場に崩れ落ちた僕は、ぐわんぐわんと鐘のように打たれた頭蓋を抱え、まっすぐに意識の闇に堕ちていった。
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登場人物紹介

◆鬼月丹司


芽八市に引っ越してきた中学二年生。

PCと散歩が趣味。

大らかで誰とでも打ち解ける性格。


◆美星

(イラスト/ちすお様)


丹司が家の近所で出会った浴衣姿の

ミステリアスな少女。

猫のグージーと暮らしている。

人目を極端に避けようとする。

◆グージー

(イラスト/高橋直樹様)


美星といつもいるキジ白猫。

◆黄賀エリカ

(イラスト/ちすお様)


生徒会長。身長と胸のサイズを気にしている。

昼間は屍のように机に突っ伏しているが、

放課後になると、生徒会の仕事に活発に取り組む。

美麗な容姿に似合わず男っぽい口調。


◆右京ほたる

(イラスト/ちすお様)


本業は巫女。

冷静沈着で、積極的に人とかかわりを持たない。

冷ややかな口調だが、けっして不機嫌なわけでない。


◆工藤乃瑛琉

(イラスト/ちすお様)


童顔の容姿に似合わずグラマラス。

ふわふわとした物言いで、

心を読み取りづらい。

虚弱体質で不登校がちのようだが・・・。

◆兵頭新之助


裏生徒会長。

当初は丹司に対して高圧的な態度で

接していたが、丹司のあっけらかんとした

性格に気圧され、徐々に仲を深めてゆく。

実は、仲間思い。


◆相沢真澄


裏生徒会メンバーのひとり。

理知的で物静かだが、

意見はハッキリと口にする。

親が町一番の金持ち。

◆石井悠善


通称石井ちゃん。

裏生徒会メンバーのひとり。

兵頭を心酔し、腰ぎんちゃくのように

兵頭と行動を共にする。


◆マサヤ伯父さん


市街に住む丹司の伯父。

中学の技術の先生。

仕事にのめり込む丹司の父を心配する。

◆キツネザビ


担任の先生。

口が悪く特に転校生の丹司に

冷たい態度をとる。

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