13、不登校女子

文字数 902文字

 まさか、あの子も同じクラスだったとは。
 あれから三週間が過ぎようとしていたが、北理科室で会った女子生徒が初めて登校してきた。
 名前は工藤乃瑛琉(のえる)。
 その今風の漢字にも面食らうが、彼女の座席が教卓の横ときたものだから相変わらず予想の斜めをゆく。
 普段は存在しない場所に机と椅子が設置された。それだもの、登校していない生徒がいたなんて気づく由もない。
 キツネザビの甲高い声で朝礼が終わり、夏休みの過ごし方についての注意点が告げられ、次いで宿題や保護者に向けられたプリントが大量に配られた。その間も、教卓の横で背中を丸くして座る髪の長い乃瑛琉を密かに目で追った。
 「彼女は、どこか悪いの?」
 身体を傾けて、隣の席の右京ほたるに小声で尋ねる。
 「……乃瑛琉は、夏休みが山かもしれないわね」
 「え? 山?」
 耳を疑った。
 「難病とか?」 
 さらにひそひそ声で訊く。
 「明日は我が身。気にかけていられないわ」
 僕は、この薄情な一言に少なからず内心ショックを覚えた。
 ほたるはこちらに一瞥もくれず、配られたプリントを熱心に見ながら、生徒手帳に細かな字で予定を書き込んでいた。
 包帯を巻いて欲しいとせがんできた西理科室でのなまめかしい彼女が脳裏をよぎる。
特殊な体質と何か関係しているのだろうか。でなければ、「明日は我が身」なんて発言しないだろう。
 「僕たちにできることってないの?」
 場違いな発言だったのだろうか。ほたるの目は、「あなたって可哀そうな人ね」とでも言いたそうな非難の色を帯びていた。
 いや、下手に同情して腫れものに触るように接する方が相手に対して失礼だと考えているのかもしれない。僕がほたるに抱いている印象はそう考える方が妥当だ。
 「そんな余裕ないはずよ」
 ほたるは渋面を作った。
 図星なことを言われて僕は何も言い返せなかった。
 でも、昔から他とは違う人や異質なものを目にすると、湧き上がってくる好奇心を抑え込むことができない性格だった。それを彼女に伝えれば済む話なのかもしれないが、「暇人ね」と追い打ちをかけられそうな気がして言えなかった。
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登場人物紹介

◆鬼月丹司


芽八市に引っ越してきた中学二年生。

PCと散歩が趣味。

大らかで誰とでも打ち解ける性格。


◆美星

(イラスト/ちすお様)


丹司が家の近所で出会った浴衣姿の

ミステリアスな少女。

猫のグージーと暮らしている。

人目を極端に避けようとする。

◆グージー

(イラスト/高橋直樹様)


美星といつもいるキジ白猫。

◆黄賀エリカ

(イラスト/ちすお様)


生徒会長。身長と胸のサイズを気にしている。

昼間は屍のように机に突っ伏しているが、

放課後になると、生徒会の仕事に活発に取り組む。

美麗な容姿に似合わず男っぽい口調。


◆右京ほたる

(イラスト/ちすお様)


本業は巫女。

冷静沈着で、積極的に人とかかわりを持たない。

冷ややかな口調だが、けっして不機嫌なわけでない。


◆工藤乃瑛琉

(イラスト/ちすお様)


童顔の容姿に似合わずグラマラス。

ふわふわとした物言いで、

心を読み取りづらい。

虚弱体質で不登校がちのようだが・・・。

◆兵頭新之助


裏生徒会長。

当初は丹司に対して高圧的な態度で

接していたが、丹司のあっけらかんとした

性格に気圧され、徐々に仲を深めてゆく。

実は、仲間思い。


◆相沢真澄


裏生徒会メンバーのひとり。

理知的で物静かだが、

意見はハッキリと口にする。

親が町一番の金持ち。

◆石井悠善


通称石井ちゃん。

裏生徒会メンバーのひとり。

兵頭を心酔し、腰ぎんちゃくのように

兵頭と行動を共にする。


◆マサヤ伯父さん


市街に住む丹司の伯父。

中学の技術の先生。

仕事にのめり込む丹司の父を心配する。

◆キツネザビ


担任の先生。

口が悪く特に転校生の丹司に

冷たい態度をとる。

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