17、マサヤ伯父さん
文字数 1,238文字
「伯父さん、どうしたの?」
「ああ。急にかけて悪いな。丹司、いま少し話せるか?」
「構わないよ」
ノートPCを閉じて、椅子をくるっと回し壁のほうを見た。
マサヤ伯父さんは、以前通っていた中学の技術の先生であり、父の五つ上のお兄さんでもある。昔から従妹を交えてキャンプをしに行ったり、釣りに連れて行ってくれたり、実の父親以上に面倒をみてくれた。伯父さん曰く、「男の子が欲しかったんだよー」とのこと。
「最近、いっちゃんはどうだ?」
いっちゃんとは、父鬼月樹のあだ名だ。
「竹馬の友には身も心も注いでますよ」
「なんだ、嫌味たっぷりだな。人助けみたいな仕事だ、しかたない。だが、そっちで入れ込むいっちゃんに俺は感心しないな」
途中からマサヤ伯父さんの声の調子が変わった。
「なんで?」
「聞いてないのか、丹司。親戚から冷遇されている話を」
「え? 冷遇?」
「アザミさんからも何もナシか?」
「母さんからも、うん、特に……」
「まぁアザミさんは基本、大人しいもんな。親戚中で、樹は怪しい神主に魂を持っていかれたって話で持ち切りだよ」
くるくる回していた椅子を足で止めた。
神主の二文字には敏感になっていた。
「でも、じいちゃん同士、付き合いがあるって言ってたけど。そんなヤバイ人物なの? 神職なのに?」
「警官だって医師だって神父だって、おかしなやつはいる。三人兄弟で、一番成績の良かったいっちゃんの仕事を悪く言うつもりはないがな」
マサヤ伯父さんはどこか切羽詰まっていた。
神主の素性をすでに知っているのだろうか。この流れで質問しようとしたが、マサヤ伯父さんは自ら語り始めた。
「あまりいい噂を聞かない。因みに、女蜂神社の神主なんだが、帝王貝細工と言う。名前からして怪しいよな。そもそも、メバチに行くかもしれないって言いだした時から俺は反対だったんだ」
つい最近、女蜂神社はネットで検索したばかりだった。
「その、いい噂を聞かないって言うのはどこで知ったの? そんなに有名な人なの?」
突然、ザァァァァとノイズが走った。
自分の方が不具合を起こしたのかと思い携帯を耳から離して確認する。
マサヤ伯父さんの名前は表示されたままだった。
「伯父さん? 聞こえる?」
「…るか? ……かしいな」
ノイズは消えないが、マサヤ伯父さんの言葉が途切れ途切れに聞こえてきた。
「伯父さん、今どこにいるの? もしかして、車に乗ってる? 走行しながらは危険だよ」
僕の言葉が伯父さんの耳に届いたのかわからぬまま、電話は切れてしまった。
一時間後、伯父さんから「調子悪くなった、すまん。また話そう」と短いメールが届いた。
もっと伯父さんと話していたかった。芽八市へ来てから誰一人味方がいない上に、会話がかみ合わないことばかりで地味にストレスを感じていた。
それにしても、あまり良い噂を聞かない神主とやらが少々気がかりだった。
「ああ。急にかけて悪いな。丹司、いま少し話せるか?」
「構わないよ」
ノートPCを閉じて、椅子をくるっと回し壁のほうを見た。
マサヤ伯父さんは、以前通っていた中学の技術の先生であり、父の五つ上のお兄さんでもある。昔から従妹を交えてキャンプをしに行ったり、釣りに連れて行ってくれたり、実の父親以上に面倒をみてくれた。伯父さん曰く、「男の子が欲しかったんだよー」とのこと。
「最近、いっちゃんはどうだ?」
いっちゃんとは、父鬼月樹のあだ名だ。
「竹馬の友には身も心も注いでますよ」
「なんだ、嫌味たっぷりだな。人助けみたいな仕事だ、しかたない。だが、そっちで入れ込むいっちゃんに俺は感心しないな」
途中からマサヤ伯父さんの声の調子が変わった。
「なんで?」
「聞いてないのか、丹司。親戚から冷遇されている話を」
「え? 冷遇?」
「アザミさんからも何もナシか?」
「母さんからも、うん、特に……」
「まぁアザミさんは基本、大人しいもんな。親戚中で、樹は怪しい神主に魂を持っていかれたって話で持ち切りだよ」
くるくる回していた椅子を足で止めた。
神主の二文字には敏感になっていた。
「でも、じいちゃん同士、付き合いがあるって言ってたけど。そんなヤバイ人物なの? 神職なのに?」
「警官だって医師だって神父だって、おかしなやつはいる。三人兄弟で、一番成績の良かったいっちゃんの仕事を悪く言うつもりはないがな」
マサヤ伯父さんはどこか切羽詰まっていた。
神主の素性をすでに知っているのだろうか。この流れで質問しようとしたが、マサヤ伯父さんは自ら語り始めた。
「あまりいい噂を聞かない。因みに、女蜂神社の神主なんだが、帝王貝細工と言う。名前からして怪しいよな。そもそも、メバチに行くかもしれないって言いだした時から俺は反対だったんだ」
つい最近、女蜂神社はネットで検索したばかりだった。
「その、いい噂を聞かないって言うのはどこで知ったの? そんなに有名な人なの?」
突然、ザァァァァとノイズが走った。
自分の方が不具合を起こしたのかと思い携帯を耳から離して確認する。
マサヤ伯父さんの名前は表示されたままだった。
「伯父さん? 聞こえる?」
「…るか? ……かしいな」
ノイズは消えないが、マサヤ伯父さんの言葉が途切れ途切れに聞こえてきた。
「伯父さん、今どこにいるの? もしかして、車に乗ってる? 走行しながらは危険だよ」
僕の言葉が伯父さんの耳に届いたのかわからぬまま、電話は切れてしまった。
一時間後、伯父さんから「調子悪くなった、すまん。また話そう」と短いメールが届いた。
もっと伯父さんと話していたかった。芽八市へ来てから誰一人味方がいない上に、会話がかみ合わないことばかりで地味にストレスを感じていた。
それにしても、あまり良い噂を聞かない神主とやらが少々気がかりだった。