第77話 帝王への道

文字数 930文字

(みやび)と済ませてきたんだな」

 入室した南柾樹(みなみ まさき)に、ウツロは意趣返しを見舞った。

「鼻がいいよな、ほんと」

 南柾樹は予想していたとばかりにほほえみ、ウツロのとなりへと座った。

「ここ最近の様子の変化、気づいていたよ。何があったんだ、柾樹?」

「単刀直入だな。おまえこそ変わったんじゃね、ウツロ?」

「アップグレードであることを祈るよ」

「いいね、それ。そうでなきゃな、おまえはよ」

「じらさないで、教えてくれないか?」

「じゃあ、俺も直球で行くぜ?」

「頼む」

 南柾樹はウツロのほうへ顔を寄せた。

「総帥の息子なんだってよ、俺」

「……」

「この国を陰で牛耳る組織・龍影会(りゅうえいかい)のナンバー・ワン、その男の息子だってことだ、俺がね」

「そんな、柾樹……」

 にわかには信じがたい内容に、ウツロはたじろいだ。

「少し前から、氷潟にいろいろと聞かされてたんだ。それで河川敷にいたってわけ。どう思う、ウツロ? 俺が何を考えてるか、想像つく?」

 ウツロは生唾をのみ、好戦的な表情を作った。

「……めぐってきたな(・・・・・・・)、柾樹」

「……」

 南柾樹は腹をかかえ、盛大に笑い出す。

「ちょ、どうしたウツロ!? 軽蔑すると思ったのに! 曲がったとか言うんじゃねえかとひやひやしてたんだぜ!?」

「柾樹よ、これは奇跡的なめぐりあわせだと思うんだ。おまえが龍影会の総帥の子どもで、俺はと言えば似嵐の血を受け継いでいる。何かが引き合ったのか……いずれにしても、ただごとではない」

「どうしようか、ウツロ。世界征服とか、しちゃう?」

「子どもじみているな、しかし、それがいい……!」

「ウツロ、おまえほんとに変わったよな」

「間違えるな柾樹、アップグレードだ。俺にだって、まっとうな野心くらいある」

「野心ねえ、しびれるぜ。どうする? 俺といっしょに地獄を見る覚悟はあるか?」

「失うものはきっと多いんだろう。しかしだ柾樹、船が用意されていてそれに乗らないという選択をするほど、俺は人間ができてはいない」

 彼は再び腹をかかえた。

「でた、人間! そうじゃなくちゃよ、ウツロ。行こうぜ、天国によ?」

「そこへ俺を導いてくれよ? 閣下(・・)?」

 こんなふうにしばらく、二人は談笑していた。

 未来の帝王とその右腕を祝福するように、窓からさわやかな秋風が注ぎこんでいた――
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

氏名:ウツロ


父・似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)と兄・アクタの壮絶な死から約半年、その事実と向き合いながら、現在はアルトラ使いを管理・監督する組織「特定生活対策室」の意思のもと、佐伯悠亮(さえき ゆうすけ)を名乗り、名門私立である黒帝高校(こくていこうこう)の学生として、充実した日々を送っている。

彼を救った真田龍子とは相思相愛の仲である。

趣味は思索、愛読書はトマス・ホッブズの「リヴァイアサン」

龍子の弟・虎太郎の影響で、音楽にものめり込んでいる。


アルトラ名:エクリプス


虫を自由自在に操ることができる。

虫を身に纏い、常人離れした能力を持つ戦士へと変身することもできる。

氏名:真田龍子(さなだ りょうこ)


魔道へ落ちかけたウツロの心によりそい、彼を救い出した少女。

慈愛・慈悲の精神を持っているが、それを「偽善」だと指摘されることもあり、ジレンマを抱えている。

ウツロとは相思相愛の関係。

真田虎太郎は実弟。


アルトラ名:パルジファル


他者を肉体的・精神的に治癒することが可能であるが、能力を使用するときの負担が大きい。

氏名:南柾樹(みなみ まさき)


はじめはウツロを邪険にしていたが、それは彼に自身の存在を投影してのことだった。

アクタの遺志を受け継ぎ、ウツロを守ると心に誓っている。

いまでは彼のよき友である。


アルトラ名:サイクロプス


巨人に変身できる。

絶大なパワーを持つが、その姿は彼のトラウマの結晶である。

氏名:星川雅(ほしかわ みやび)


似嵐鏡月は叔父であり、すなわちウツロとはいとこの関係である。

両親はともに精神科医で、彼女もすぐれた観察眼を持っている。

傀儡師の精神を持つ母の操り人形として育てられ、屈折した支配欲求を抱いている。


アルトラ名:ゴーゴン・ヘッド


「二口女」よろしく、髪の毛と後頭部の大口を自由自在に操ることができる。

氏名:真田虎太郎(さなだ こたろう)


真田龍子の実弟。

姉同様、慈愛・慈悲の精神を持っている。

ウツロと同じく考えすぎてしまう傾向がある。

好きな作曲家はグスタフ・マーラー。


アルトラ名:イージス


緑色の「バリア」を張ることができる。

他者にもそれをかけることが可能である。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み