第39話 忸怩

文字数 800文字

虎太郎(こたろう)くん、そんなの見てて面白い?」

「僕などには難しいですが、はい、なんだか雰囲気が好きなのです」

「へえ、そうなんだね」

 夕食後、真田虎太郎(さなだ こたろう)武田暗学(たけだ あんがく)は、ロビーでテレビをかけながら談話していた。

 真田虎太郎は画面に映る若い総理の答弁に夢中だが、武田暗学のほうは意に(かい)していない。

鬼堂(きどう)総理のキリっとした受け答えが、とても興味深いと思います」

鬼堂龍門(きどう りゅうもん)、戦後最年少で内閣総理大臣に任命されたあんちゃんだね。幹事長からたいそう目をかけられているんだとか。すごいオーラだよね、まるでナイフみたいだ」

「ナイフですか、なるほど。確かにキレッキレですね」

「彼には昔、万城目優作(まきめ ゆうさく)っていう同期のライバルがいたんだけど、国際的なテロ組織から襲われて、命を落としちゃってるんだよ。ひとり娘の、えーと、日和(ひより)ちゃんだっけか、その子まで一緒にね」

「……」

 真田虎太郎は思い出した。

 ウツロの父・似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)が殺害したという政治家・万城目優作。

 その娘・万城目日和は実は生きており、ウツロとアクタとは別な場所に保護され、暗殺の教えを受けたと。

 その万城目日和がついに姿を現し、どうやらウツロたちをつけ狙っているらしい。

 直接聞いたわけではないが、噂に戸は立てられない。

 ウツロや姉たちが会話しているところを、意図せずとはいえ耳にしている。

 自分を巻き込むまいと気をつかってくれている。

 それはじゅうぶんに理解できるのだが、自分だってアルトラ能力を持つ特生対(とくせいたい)の一員だ。

 配慮には感謝をしつつ、仲間はずれにされているようなもどかしさが、彼の心の中にはあった。

 いまだって、食堂でみんなが新しい情報について議論しているようだ。

 自分もその輪に加わりたいのに……

 真田虎太郎は体を丸めるように、テレビに映る鬼堂総理の鋭いまなざしとにらめっこをした。

 そのまなざしが、モニターの外側へ向いているとも知らずに――

(『第40話 火牛計(かぎゅうけい)』へ続く)
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登場人物紹介

氏名:ウツロ


父・似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)と兄・アクタの壮絶な死から約半年、その事実と向き合いながら、現在はアルトラ使いを管理・監督する組織「特定生活対策室」の意思のもと、佐伯悠亮(さえき ゆうすけ)を名乗り、名門私立である黒帝高校(こくていこうこう)の学生として、充実した日々を送っている。

彼を救った真田龍子とは相思相愛の仲である。

趣味は思索、愛読書はトマス・ホッブズの「リヴァイアサン」

龍子の弟・虎太郎の影響で、音楽にものめり込んでいる。


アルトラ名:エクリプス


虫を自由自在に操ることができる。

虫を身に纏い、常人離れした能力を持つ戦士へと変身することもできる。

氏名:真田龍子(さなだ りょうこ)


魔道へ落ちかけたウツロの心によりそい、彼を救い出した少女。

慈愛・慈悲の精神を持っているが、それを「偽善」だと指摘されることもあり、ジレンマを抱えている。

ウツロとは相思相愛の関係。

真田虎太郎は実弟。


アルトラ名:パルジファル


他者を肉体的・精神的に治癒することが可能であるが、能力を使用するときの負担が大きい。

氏名:南柾樹(みなみ まさき)


はじめはウツロを邪険にしていたが、それは彼に自身の存在を投影してのことだった。

アクタの遺志を受け継ぎ、ウツロを守ると心に誓っている。

いまでは彼のよき友である。


アルトラ名:サイクロプス


巨人に変身できる。

絶大なパワーを持つが、その姿は彼のトラウマの結晶である。

氏名:星川雅(ほしかわ みやび)


似嵐鏡月は叔父であり、すなわちウツロとはいとこの関係である。

両親はともに精神科医で、彼女もすぐれた観察眼を持っている。

傀儡師の精神を持つ母の操り人形として育てられ、屈折した支配欲求を抱いている。


アルトラ名:ゴーゴン・ヘッド


「二口女」よろしく、髪の毛と後頭部の大口を自由自在に操ることができる。

氏名:真田虎太郎(さなだ こたろう)


真田龍子の実弟。

姉同様、慈愛・慈悲の精神を持っている。

ウツロと同じく考えすぎてしまう傾向がある。

好きな作曲家はグスタフ・マーラー。


アルトラ名:イージス


緑色の「バリア」を張ることができる。

他者にもそれをかけることが可能である。

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