第46話 ライオン・ハート

文字数 799文字

「は~い、ウツロ」

 ウツロが旧校舎の中庭へ到着すると、ベンチに座った刀子朱利(かたなご しゅり)がひらひらと手を振っている。

 かたわらには気絶した真田龍子(さなだ りょうこ)が横たわっていた。

「刀子朱利、貴様っ……!」

「あははっ、かっかしちゃってえ。龍子ちゃんのこと、大好きだもんねえ。ああ、りょーこ、りょーこおおおっ」

「おのれ、断じて許さんっ!」

「ははっ、かっわいい~! まあ落ち着きなって、あんたに用があるのは、あたしじゃないんだからさ」

「なにっ……」

 庭園の木の陰から、金髪の少年が姿を現した。

氷潟夕真(ひがた ゆうま)……!」

「ウツロ、俺と戦え」

 氷潟夕真はそう啖呵を切った。

「何が目的だ?」

「そんなものはない。俺はお前とケンカがしたい。それだけだ」

「……」

「ほらほら、早く言うとおりにしないさいよ。じゃなきゃね、わたしが真田さんのこと、この爪でひっかいちゃうよ?」

 刀子朱利は真田龍子の首筋に指を当てて、ケラケラと笑っている。

「ぐっ……!」

「うふふ、死ぬほうがマシってくらい凶悪なやつにしようかな~」

「きっ、貴様あああああっ!」

 自身の能力、ムカデの毒を使用することを示唆する彼女に、ウツロは激高した。

「ウツロ、お前の相手はこの俺だ。朱利、くれぐれも余計な真似はするなよ?」

「ふん、わかってるって。ほんと、男ってめんどくさいよね」

 氷潟夕真は刀子朱利に、戦いの邪魔をしないよう釘を刺した。

「そういうことだ、ウツロ。俺は全力での戦いを望む。アルトラを出せ」

「な……」

「虫を身にまとった戦士の姿、一度拝んでみたいと思っていた。それを見せてもらおう。俺もお前に敬意を払って、絶対に手は抜かないと誓う」

「な、これは……」

 氷潟夕真の全身が変形しはじめる。

 皮膚が黄土色(おうどいろ)に変わり、金色(こんじき)に輝く「毛並み」が生えそろってくる。

「アルトラ、ライオン・ハート……!」

「氷潟、それがお前の能力か……!」

 彼の姿は一匹の、獅子(ライオン)をモチーフにした獣人に変貌を遂げていた――
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登場人物紹介

氏名:ウツロ


父・似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)と兄・アクタの壮絶な死から約半年、その事実と向き合いながら、現在はアルトラ使いを管理・監督する組織「特定生活対策室」の意思のもと、佐伯悠亮(さえき ゆうすけ)を名乗り、名門私立である黒帝高校(こくていこうこう)の学生として、充実した日々を送っている。

彼を救った真田龍子とは相思相愛の仲である。

趣味は思索、愛読書はトマス・ホッブズの「リヴァイアサン」

龍子の弟・虎太郎の影響で、音楽にものめり込んでいる。


アルトラ名:エクリプス


虫を自由自在に操ることができる。

虫を身に纏い、常人離れした能力を持つ戦士へと変身することもできる。

氏名:真田龍子(さなだ りょうこ)


魔道へ落ちかけたウツロの心によりそい、彼を救い出した少女。

慈愛・慈悲の精神を持っているが、それを「偽善」だと指摘されることもあり、ジレンマを抱えている。

ウツロとは相思相愛の関係。

真田虎太郎は実弟。


アルトラ名:パルジファル


他者を肉体的・精神的に治癒することが可能であるが、能力を使用するときの負担が大きい。

氏名:南柾樹(みなみ まさき)


はじめはウツロを邪険にしていたが、それは彼に自身の存在を投影してのことだった。

アクタの遺志を受け継ぎ、ウツロを守ると心に誓っている。

いまでは彼のよき友である。


アルトラ名:サイクロプス


巨人に変身できる。

絶大なパワーを持つが、その姿は彼のトラウマの結晶である。

氏名:星川雅(ほしかわ みやび)


似嵐鏡月は叔父であり、すなわちウツロとはいとこの関係である。

両親はともに精神科医で、彼女もすぐれた観察眼を持っている。

傀儡師の精神を持つ母の操り人形として育てられ、屈折した支配欲求を抱いている。


アルトラ名:ゴーゴン・ヘッド


「二口女」よろしく、髪の毛と後頭部の大口を自由自在に操ることができる。

氏名:真田虎太郎(さなだ こたろう)


真田龍子の実弟。

姉同様、慈愛・慈悲の精神を持っている。

ウツロと同じく考えすぎてしまう傾向がある。

好きな作曲家はグスタフ・マーラー。


アルトラ名:イージス


緑色の「バリア」を張ることができる。

他者にもそれをかけることが可能である。

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