第55話 万城目日和の正体

文字数 1,279文字

「やはりおまえだったのか、万城目日和(まきめ ひより)の正体は……!」

 姿を現した影。

 それはウツロのよく知る人物だった。

柿崎(・・)、まさかおまえが万城目日和だったとはな……」

 柿崎景太(かきざき けいた)

 ウツロとは同じクラスのやんちゃ坊主だ。

 しかしその顔は、普段の彼とはむしろ真逆な、殺意に満たされたものだった。

 眼光はナイフのような鋭ささえ持っている。

「よう、佐伯(さえき)。どうしてわかった?」

「……」

 「彼」は腰に手を当ててウツロにたずねた。

「鼻のいいおまえをだまくらかすのに、相当気を使ったんだぜえ? 教えてくれよ、どうして俺が万城目日和だってわかったんだ?」

「これさ」

 ウツロはブレザーの(ふところ)から端末を取り出した。

聖川(ひじりかわ)に確認を取ったんだ。なぜ彼が旧校舎に来たのか、ずっと気になっていた。聖川が言うには、古河(ふるかわ)先生から俺を探してくるように頼まれたとのこと。そして話の筋から、そう誘導したのが柿崎、つまりは万城目日和、おまえだということだ」

「ふん」

 柿崎景太、いや万城目日和は顔をゆがめて笑った。

刀子(かたなご)氷潟(ひがた)がいきなり真田を拉致(らち)ったからな。俺もけっこう焦ってさ。で、ボロが出ちまったってわけだ。は~あ、俺もまだまだだぜ」

 手を振ってあきれるしぐさをする。

「なぜこんなことをした?」

 ウツロの問いかけに、万城目日和は目玉をギョロッとさせて向き直った。

「なぜ? おまえいま、なぜって言ったか? おまえが一番よくわかってるだろ、佐伯? いや、毒虫のウツロ? てめえの親父、似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)は俺の親父、万城目優作(まきめ ゆうさく)をぶっ殺した。親父はな、あのくそったれな黒彼岸(くろひがん)で、どたまをかち割られたんだぜ? まだ小学生だった、俺の目の前でな。どう思う? 目の前で肉親をザクロにされる気分が、てめえにわかるか? てめえみてえな悲劇のヒーロー気取りのクソ野郎に? あのとき以来、俺の人生はめちゃくちゃだ。俺は生きるために、必死であいつから技を盗んだ。てめえの親父をこの手で直々にぶち殺すためにな。どう思う? 親の(かたき)を取るために、親の仇から殺人術を習ったんだぜ? なあ、どう思う? どう思うよ? ウツロおおおおおっ――!」

「……」

 天を仰いでの咆哮(ほうこう)

 その叫びは倉庫のいたるところを震わせた。

 何も言えない、言えるわけがない。

 ウツロにはかける言葉など見つからなかった。

 ひとしきり吠えると、万城目日和は深呼吸をした。

「わりい、つい感情的になっちまった。まあ、正直言って、いまさらどうでもいいんだよ。過去が変えられるわけじゃねえしな」

「……」

 ウツロは(もく)して万城目日和を見つめていた。

「だがな、これだけは言いたいんだ、あえてな。ウツロよ、聞いてくれるか? 俺の話」

 静かな、しかし強いまなざしが彼に刺さった。

「言ってくれ、万城目日和。俺にはそれを聞く義務がある」

 そう返した。

「はっ、義務か。真面目なんだな、おまえ。損するぜ? そういう性格はよ」

「いいから、おまえが言いたいことを言ってくれないか?」

「ふん、じゃあ、言うぜ?」

 万城目日和は姿勢を正した。

 その双眸(そうぼう)にはどこか、(りん)とした風格がたたえられている。

「ウツロ、俺の人生を、返せ」
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登場人物紹介

氏名:ウツロ


父・似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)と兄・アクタの壮絶な死から約半年、その事実と向き合いながら、現在はアルトラ使いを管理・監督する組織「特定生活対策室」の意思のもと、佐伯悠亮(さえき ゆうすけ)を名乗り、名門私立である黒帝高校(こくていこうこう)の学生として、充実した日々を送っている。

彼を救った真田龍子とは相思相愛の仲である。

趣味は思索、愛読書はトマス・ホッブズの「リヴァイアサン」

龍子の弟・虎太郎の影響で、音楽にものめり込んでいる。


アルトラ名:エクリプス


虫を自由自在に操ることができる。

虫を身に纏い、常人離れした能力を持つ戦士へと変身することもできる。

氏名:真田龍子(さなだ りょうこ)


魔道へ落ちかけたウツロの心によりそい、彼を救い出した少女。

慈愛・慈悲の精神を持っているが、それを「偽善」だと指摘されることもあり、ジレンマを抱えている。

ウツロとは相思相愛の関係。

真田虎太郎は実弟。


アルトラ名:パルジファル


他者を肉体的・精神的に治癒することが可能であるが、能力を使用するときの負担が大きい。

氏名:南柾樹(みなみ まさき)


はじめはウツロを邪険にしていたが、それは彼に自身の存在を投影してのことだった。

アクタの遺志を受け継ぎ、ウツロを守ると心に誓っている。

いまでは彼のよき友である。


アルトラ名:サイクロプス


巨人に変身できる。

絶大なパワーを持つが、その姿は彼のトラウマの結晶である。

氏名:星川雅(ほしかわ みやび)


似嵐鏡月は叔父であり、すなわちウツロとはいとこの関係である。

両親はともに精神科医で、彼女もすぐれた観察眼を持っている。

傀儡師の精神を持つ母の操り人形として育てられ、屈折した支配欲求を抱いている。


アルトラ名:ゴーゴン・ヘッド


「二口女」よろしく、髪の毛と後頭部の大口を自由自在に操ることができる。

氏名:真田虎太郎(さなだ こたろう)


真田龍子の実弟。

姉同様、慈愛・慈悲の精神を持っている。

ウツロと同じく考えすぎてしまう傾向がある。

好きな作曲家はグスタフ・マーラー。


アルトラ名:イージス


緑色の「バリア」を張ることができる。

他者にもそれをかけることが可能である。

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