第37話 龍影会

文字数 903文字

雛多(ひなた)くん、おまた~」

 ウツロへの『試験』を終えた浅倉喜代蔵(あさくら きよぞう)は、待たせてあったフェラーリ・スパイダーのドアを勢いよく(ひら)いた。

「うわっ、先生、ネギくさっ! 俺のスパイダーにつけないでくださいよ! ほら、ちゃんと洗ってから!」

 運転席の羽柴雛多(はしば ひなた)はとっさに鼻をつまんだ。

「ちまちまうるさいなあ、そんなんじゃ女の子にモテなくなるよ? それに、俺はいますごく気分がいいんだ」

 浅倉喜代蔵は意に(かい)さず助手席へ乗り込んだ。

 羽柴雛多は驚いた様子だ。

「と、いうことは……毒虫のウツロが、先生の満足する答えを出したってこですか?」

「ふふっ、まあねえ」

 浅倉喜代蔵は笑いをこらえながら答えた。

「本部で着替えてから、さっそく閣下に報告してくるよ」

「総帥はどう反応されるでしょうね?」

「さあねえ、あの人は気まぐれだからなあ。とりま今回はファースト・コンタクトだし、すぐさまブチ殺すってことだけはしないんじゃないの?」

「適当ですね、先生。仮にも人の命なのに」

「ははっ、人の命!? 雛多くん、冗談はよしてよ! 俺らが人の命だって!? そんなんいくらでも踏みにじってきたじゃん! 大事の前の小事でしょ!? われわれ龍影会(りゅうえいかい)は、国家を影で統治(とうち)してるんだぜ!? ひひっ、ははっ、こりゃおかしい!」

 浅倉喜代蔵はスイッチが切り替わったようにゲラゲラと笑い出した。

「ひいーっ、まあ、閣下は少なとも人の痛みなんてわからない人だしね。自称・無痛症(むつうしょう)、あのお方には痛覚がない。まさに生まれついてのバケモノだよ、はっはー!」

「あわわ、先生、どこに耳があるか……」

「はーあ、カエルの子はカエル。バケモノの子はバケモノってかあ?」

「ああ、もう! いいかげんにしてください!」

「ああ、楽しい! ひひっ、ひひひ……! ほら雛多くん、さっさと車、出しましょうや」

「もう、先生が敵じゃなくて本当によかったですよ! ところで……」

「はあ、何? どうしたの?」

「本部までってけっこう距離ありますけど、ネギのにおい……」

「そんなの関係ねえ!」

「ああ、こりゃオッパッピーだ……」

 このようにして、羽柴雛多はけだるくアクセルを踏んだのであった――

(『第38話 黒い部屋』へ続く)
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登場人物紹介

氏名:ウツロ


父・似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)と兄・アクタの壮絶な死から約半年、その事実と向き合いながら、現在はアルトラ使いを管理・監督する組織「特定生活対策室」の意思のもと、佐伯悠亮(さえき ゆうすけ)を名乗り、名門私立である黒帝高校(こくていこうこう)の学生として、充実した日々を送っている。

彼を救った真田龍子とは相思相愛の仲である。

趣味は思索、愛読書はトマス・ホッブズの「リヴァイアサン」

龍子の弟・虎太郎の影響で、音楽にものめり込んでいる。


アルトラ名:エクリプス


虫を自由自在に操ることができる。

虫を身に纏い、常人離れした能力を持つ戦士へと変身することもできる。

氏名:真田龍子(さなだ りょうこ)


魔道へ落ちかけたウツロの心によりそい、彼を救い出した少女。

慈愛・慈悲の精神を持っているが、それを「偽善」だと指摘されることもあり、ジレンマを抱えている。

ウツロとは相思相愛の関係。

真田虎太郎は実弟。


アルトラ名:パルジファル


他者を肉体的・精神的に治癒することが可能であるが、能力を使用するときの負担が大きい。

氏名:南柾樹(みなみ まさき)


はじめはウツロを邪険にしていたが、それは彼に自身の存在を投影してのことだった。

アクタの遺志を受け継ぎ、ウツロを守ると心に誓っている。

いまでは彼のよき友である。


アルトラ名:サイクロプス


巨人に変身できる。

絶大なパワーを持つが、その姿は彼のトラウマの結晶である。

氏名:星川雅(ほしかわ みやび)


似嵐鏡月は叔父であり、すなわちウツロとはいとこの関係である。

両親はともに精神科医で、彼女もすぐれた観察眼を持っている。

傀儡師の精神を持つ母の操り人形として育てられ、屈折した支配欲求を抱いている。


アルトラ名:ゴーゴン・ヘッド


「二口女」よろしく、髪の毛と後頭部の大口を自由自在に操ることができる。

氏名:真田虎太郎(さなだ こたろう)


真田龍子の実弟。

姉同様、慈愛・慈悲の精神を持っている。

ウツロと同じく考えすぎてしまう傾向がある。

好きな作曲家はグスタフ・マーラー。


アルトラ名:イージス


緑色の「バリア」を張ることができる。

他者にもそれをかけることが可能である。

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