第44話 青写真

文字数 580文字

 同時刻、音楽室

 氷潟夕真(ひがた ゆうま)が入室すると、ピアノの椅子にちょこんと座った刀子朱利(かたなご しゅり)が、拍子抜けをさせるように手を挙げた。

「は~い、夕真」

「朱利、こんな時間にこんなところに呼び出したりして、いったい何の用だ?」

 彼女は手を組みながらニヤニヤした。

「あんたの考えてること、当ててあげようか? ウツロと戦いたくてうずうずする、そうでしょう?」

「……!」

 心を見透かされる意趣返しに、彼はドキッとした。

「一見めそめそしてるくせに実は強いやつ、そんなやつをひねりつぶしてやりたい。はっ、あんた、昔からそういうとこあるじゃん?」

「やつらはいま、固まって動いている。俺たちや万城目日和を警戒してるんだろう。もう一度真田をさらうのは難しいな……」

 氷潟夕真は少し間を置いてから答えた。

 その内容は刀子朱利の考えを読んだものだった。

「あはっ、理解が早いよね、さすが」

 彼女はケラケラと笑った。

「何が言いたいんだ、朱利?」

「難しくないってことだよ、つまりね。これ、見て。ほんの30分前まで、ここでおこなわれてたこと」

「……」

 刀子朱利は携帯の端末を氷潟夕真にかざした。

 そこには絡み合う二人の少女の映像が。

 特徴は銀色のメタルフレームの眼鏡(めがね)、そして黄色いカチューシャ。

「さ、真田さんにはまたつきあってもらいましょ? きゃはっ、きゃははっ!」

 音楽室の中に甲高(かんだか)い笑い声が響きわたった――
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登場人物紹介

氏名:ウツロ


父・似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)と兄・アクタの壮絶な死から約半年、その事実と向き合いながら、現在はアルトラ使いを管理・監督する組織「特定生活対策室」の意思のもと、佐伯悠亮(さえき ゆうすけ)を名乗り、名門私立である黒帝高校(こくていこうこう)の学生として、充実した日々を送っている。

彼を救った真田龍子とは相思相愛の仲である。

趣味は思索、愛読書はトマス・ホッブズの「リヴァイアサン」

龍子の弟・虎太郎の影響で、音楽にものめり込んでいる。


アルトラ名:エクリプス


虫を自由自在に操ることができる。

虫を身に纏い、常人離れした能力を持つ戦士へと変身することもできる。

氏名:真田龍子(さなだ りょうこ)


魔道へ落ちかけたウツロの心によりそい、彼を救い出した少女。

慈愛・慈悲の精神を持っているが、それを「偽善」だと指摘されることもあり、ジレンマを抱えている。

ウツロとは相思相愛の関係。

真田虎太郎は実弟。


アルトラ名:パルジファル


他者を肉体的・精神的に治癒することが可能であるが、能力を使用するときの負担が大きい。

氏名:南柾樹(みなみ まさき)


はじめはウツロを邪険にしていたが、それは彼に自身の存在を投影してのことだった。

アクタの遺志を受け継ぎ、ウツロを守ると心に誓っている。

いまでは彼のよき友である。


アルトラ名:サイクロプス


巨人に変身できる。

絶大なパワーを持つが、その姿は彼のトラウマの結晶である。

氏名:星川雅(ほしかわ みやび)


似嵐鏡月は叔父であり、すなわちウツロとはいとこの関係である。

両親はともに精神科医で、彼女もすぐれた観察眼を持っている。

傀儡師の精神を持つ母の操り人形として育てられ、屈折した支配欲求を抱いている。


アルトラ名:ゴーゴン・ヘッド


「二口女」よろしく、髪の毛と後頭部の大口を自由自在に操ることができる。

氏名:真田虎太郎(さなだ こたろう)


真田龍子の実弟。

姉同様、慈愛・慈悲の精神を持っている。

ウツロと同じく考えすぎてしまう傾向がある。

好きな作曲家はグスタフ・マーラー。


アルトラ名:イージス


緑色の「バリア」を張ることができる。

他者にもそれをかけることが可能である。

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