第54話 湾岸で

文字数 781文字

 30分ほどで、ウツロは坊松区(ぼうのまつく)湾岸の港へと到着した。

 あたりはすっかりと暮れなずんできて、人影も見当たらない。

 そこからの案内は、万城目日和(まきめ ひより)の「殺気」がしてくれた。

 おそらくこれも、「あえて」だろう。

 ウツロは周囲を警戒しながら、一番奥に位置する廃工場の倉庫へと入った。

「万城目日和っ――!」

 さびついたシャッターはぱっくりと口を開けており、彼はそこから中に向かって叫んだ。

「約束どおりやってきたぞ! みんなをどこへやった!?」

 倉庫の中は暗くてよく見えないが、かなりの広さがあるようだ。

「どうした、万城目日和! 姿を現さないか!」

 ウツロは襲撃に備えながら、ゆっくりとその足を踏み入れた。

「んっ――!?」

 突然飛び込んできた光に、彼は反射的に顔を隠した。

 倉庫内の明かりが、すべてつけられたのだ。

「うっ……」

 手をそっとどけると、奥のほうが視界に入った。

「みんなっ……!」

 平らに敷き詰められたコンテナ群の上に、気を失った数名が倒れている。

 真田龍子(さなだ りょうこ)南柾樹(みなみ まさき)星川雅(ほしかわ みやび)、そして刀子朱利(かたなご しゅり)氷潟夕真(ひがた ゆうま)も。

 それはあたかも、ステージの上に乗せられた見世物のように映った。

「そんな、刀子と氷潟まで……おい、みんな、大丈夫かっ!」

 駆け寄ろうとしたところで、ウツロはピタリと足を止めた。

「ステージ」の左下。

 だだっ広い倉庫内のライトアップからは、死角になっている部分。

 開かれた搬入口の闇の奥から、強烈なオーラが漂ってくる。

「そこにいるな、万城目日和! 出てこい! 姿を見せろ!」

 コツ、コツ……

 靴の鳴る音が、少しずつこちらへ近づいてくる。

「……」

 ウツロは生温かい汗を垂らし、その場所を凝視した。

「やっと会えたな、ウツロ。いや、正確には、万城目日和としては(・・・・・・・・・)、か」

 ぬうっと現れたその人物は、挑発するように語りかけた。

「やはり、おまえだったのか、万城目日和の正体(・・)は……!」
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登場人物紹介

氏名:ウツロ


父・似嵐鏡月(にがらし きょうげつ)と兄・アクタの壮絶な死から約半年、その事実と向き合いながら、現在はアルトラ使いを管理・監督する組織「特定生活対策室」の意思のもと、佐伯悠亮(さえき ゆうすけ)を名乗り、名門私立である黒帝高校(こくていこうこう)の学生として、充実した日々を送っている。

彼を救った真田龍子とは相思相愛の仲である。

趣味は思索、愛読書はトマス・ホッブズの「リヴァイアサン」

龍子の弟・虎太郎の影響で、音楽にものめり込んでいる。


アルトラ名:エクリプス


虫を自由自在に操ることができる。

虫を身に纏い、常人離れした能力を持つ戦士へと変身することもできる。

氏名:真田龍子(さなだ りょうこ)


魔道へ落ちかけたウツロの心によりそい、彼を救い出した少女。

慈愛・慈悲の精神を持っているが、それを「偽善」だと指摘されることもあり、ジレンマを抱えている。

ウツロとは相思相愛の関係。

真田虎太郎は実弟。


アルトラ名:パルジファル


他者を肉体的・精神的に治癒することが可能であるが、能力を使用するときの負担が大きい。

氏名:南柾樹(みなみ まさき)


はじめはウツロを邪険にしていたが、それは彼に自身の存在を投影してのことだった。

アクタの遺志を受け継ぎ、ウツロを守ると心に誓っている。

いまでは彼のよき友である。


アルトラ名:サイクロプス


巨人に変身できる。

絶大なパワーを持つが、その姿は彼のトラウマの結晶である。

氏名:星川雅(ほしかわ みやび)


似嵐鏡月は叔父であり、すなわちウツロとはいとこの関係である。

両親はともに精神科医で、彼女もすぐれた観察眼を持っている。

傀儡師の精神を持つ母の操り人形として育てられ、屈折した支配欲求を抱いている。


アルトラ名:ゴーゴン・ヘッド


「二口女」よろしく、髪の毛と後頭部の大口を自由自在に操ることができる。

氏名:真田虎太郎(さなだ こたろう)


真田龍子の実弟。

姉同様、慈愛・慈悲の精神を持っている。

ウツロと同じく考えすぎてしまう傾向がある。

好きな作曲家はグスタフ・マーラー。


アルトラ名:イージス


緑色の「バリア」を張ることができる。

他者にもそれをかけることが可能である。

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