第23話 亀裂
文字数 2,239文字
「待ってくれ龍子。落ち着いて、そしてきいてほしいんだ」
「ウツロ……?」
ウツロは食事をやめ、急に真剣な表情になって、彼女に顔を合わせた。
「いいかい? 第一に、さっきの
「まさか、ウツロ……」
真田龍子の
彼女はそれを
「そう、氷潟夕真は、刀子朱利とはあるいは単独で、柾樹から情報を収集している可能性がある、ということだね」
「……」
果たしてその不安は、ウツロが言い当てたのである。
「信じたくはない……特生対のデータベースから情報を
「……柾樹が、その組織の、スパイだっていうの……?」
柾樹が謎の組織のスパイ――
ウツロはそう疑っている。
真田龍子は舌の先がこわばっていく感覚に
「誤解しないでほしい、龍子。俺が言っているのはあくまで、形式上のことなんだ。もちろん、ただの
ウツロの言うことはもっともかもしれない。
しかし、言い方というものがある。
彼女はここで、愛する存在に対し、はじめて
「……ウツロ、こんなこと言うのはつらいけど……あなた、最低だよ」
「……」
最低――
そんな単語を吐かれ、ウツロはショックを受けた。
しかし燃料を投下したのは間違いなく自分だ。
彼は
「柾樹がそんなこと、するわけないじゃない……それはあなたが、ウツロがいちばんよく知っていることでしょう?」
「もちろん、俺は柾樹のことをよく知っている……と、思い込んでいるだけなのかもしれない」
「……」
反抗したかったわけでは、決してない。
しかしウツロの
「俺は少なくとも、柾樹と出会ってからのことしか、柾樹のことを知らない。柾樹は重い過去を背負っている。そのことについて、問いただそうなんて、俺にはできない。だから俺は、柾樹のことをすべて知っているとは、決して言えないんだ」
「ウツロ……」
彼は続けたが、真田龍子はますます軽蔑の念を強く持ってしまった。
二人ともバカ正直な性格だが、その微妙な認識のズレが、
「信じたい……俺だって、柾樹のことを信じたい……でも……」
ぱしんっ!
「いいかげんにして……ウツロ、あなたがそんな人間だなんて、思いもしなかった……あなた、柾樹に助けてもらったでしょう……? 絶望的な状況に置かれたあなたを、柾樹は自分を
「龍子……」
真田龍子はウツロを平手打ちにし、
直情的な彼女ではあったが、今回ばかりは
それでもなお、その
「ああ、人じゃなかったんだっけ?
勢いのあまり真田龍子は、よりにもよってタブー中のタブーを、愛するウツロに向け、吐き捨ててしまった。
「……ごめん、ウツロ……わたし、なんてことを……」
彼女は言い放ったあと、とんでもないことをしてしまったことに気づき、みるみる顔がこわばってきた。
「いや、いいんだ、龍子……それだけのことを、俺はしたんだから……」
察したウツロが声をかける。
だが真田龍子は思い出してしまった。
かつて自分が弟にしてしまったように――
苦しみを
クズだ、わたしは人間のクズだ……
トラウマがよみがえってくる。
爆発しそうだ……
終わりだ、わたしは……
そんな
「……ごめんなさい、ウツロ……ごめんなさい……」
彼女は顔を
「龍子……」
ウツロは耐えられなかった。
自分が余計なことを言ってしまったせいで……
「龍子、すまない……!」
抱きしめる。
ウツロには真田龍子の体が、冷凍されていたかのように冷たく感じた。
こんなに苦しい思いをさせてしまったのか……
彼はおのれのおこないをひどく
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
「龍子……」
不器用だった。
それは単に、彼らがまだ
地面に食べかけのフーガスが落ちていた。
真田龍子が自分の分を手放したのだ。
ウツロは彼女を
これが俺の心の中なのかもしれない、と――
(『第24話