第32話 朝稽古
文字数 1,878文字
ウツロの
マルエージング
「甘いっ!」
「取った!」
「ふんっ!」
ウツロはさらに体をひねり、
「くっ!」
星川雅は背後に跳躍し、じゅうぶんな間合いを取る。
ウツロは体勢を整え、黒刀をかまえなおした。
「へえ、腕上げたじゃん。前とは比べものにならないよ?」
「
「ふん、生意気。でもその程度じゃ、せいぜい自分の身を守ることくらいしかできないよ?」
「っ!?」
「
「ぐっ……」
心の中を見透かされ、彼は
そのとおりだった。
ウツロは
皮肉なことにその
「はいはいお前ら、その辺にしとけ。早いとこ準備しないと、学校に遅れるぜ?」
『見学』していた
さくら
ウツロは愛の対象である真田龍子を守りたいという使命感に取りつかれていたし、星川雅も
そこにはやはり、くだんの組織の存在や、あるいは
南柾樹は肩を震わす二人を心配した。
「ウツロ、そんなに焦るなって。お前の気持ちもわかるけど、急がば回れっていうだろ?」
「ありがとう柾樹。どうにも落ち着かなくて。不安だったんだ。もし、そのおそろしい組織や、万城目日和が襲ってきたとき、俺は……俺は果たして、龍子や、みんなを守れるのかって……」
ウツロはうつむきかげんにそう告白した。
「背負いすぎなんだよ、ウツロは。よきにつけ悪しきにつけね。なんでもかんでも自分で背負おうとするのは、あなたの
星川雅も彼のことを気づかってそう言った。
「わかってる、わかってるんだが……こればっかりは性格だから、どうにもね……」
ウツロの迷いを感じた南柾樹は、なんとか彼を落ち着かせようとした。
「親父の言葉を思い出しな。どんなときでも、心をくもらせるなって言ってただろ? なーに、難しいことじゃねえ。アクタの言ったみたく、パッパラパーでいりゃあいい。そうだろ?」
最大限気をつかって、そうなだめた。
「そうだね、そうだった……俺としたことが、情けないよ。それだけはブレないでいようとしたはずだったのにね」
ウツロの自己否定が久しぶりに発動した。
まずいと思った星川雅は、急いで
「ほらほら、自分を責めない。人間論もけっこうだけど、ひたすら這いまくってりゃいいってわけじゃないでしょ? ときには立ち止まることも大事だよ。そうすることで見えてくる景色だってあるんじゃないの?」
このように
「そう言ってくれてうれしいよ、雅。すまない、君という人間を誤解していた」
「はあっ、都合のいいやつ! こっちは大事なペットを取られて最悪だってのにさ! ほんっと、あんたが来てからろくなことがないよね。この、毒虫野郎!」
「そういうところが、雅のいいところだよね」
「ふん……」
ウツロのことを思ってわざと
それでいいんだよ、ウツロ。
そんなことを思いながら、星川雅は退場した。
ほころぶ顔を隠しながら。
「ウツロ、そういえばお前、今日は職場体験に行くんだっけか?」
「ああ、たこぐもって会社の運営する事業所に行く予定なんだ。
「ネギ掘るらしいじゃん。今晩のおかずがねえんだ。ちょこっとおすそわけもらってきてくんね?」
「はいはい、交渉してみるよ。ちゃっかりしてるな」
ウツロはそう言うと、黒刀を
南柾樹はその背中を見つめていた。
真田龍子を守りたいという気持ち、よくわかる。
だがその気持ちが、まかり間違ってよくない結果を招くのではないか。
南柾樹はそれを
そして彼らの不安どおり、
(『第33話 たこぐもチャレンジドへ』へ続く)