第55話 ジョゼフィーヌの訴え

文字数 1,353文字

[ローマ教皇ピウス7世]*


(@パリ)

戴冠式を執り行えと……。はてさて、気が乗らないが、仕方がない。ここ数年は、戦争もなかったし。なんとか、接収された教皇領も返してもらいたいものだ。



ブログ「ローマ教皇1 ピウス7世」

[ジョゼフィーヌ]


(駆け込んでくる)

教皇様。慈悲深き、ローマ教皇様。

なんと。未来の皇后様ではありませぬか。
教皇様。重大な告白があります。
重大な、告白ですと?
教皇は即座に人払いした。
実は……私と夫の結婚は……、

未だ、聖別されていないのです。

なんですと! 
1796年のナポレオンとジョゼフィーヌの結婚8話「ナポレオン、最初の結婚」参照)は、区役所に届け出をした結婚、世俗の結婚だった。つまりこの結婚は、宗教的には、何の意味も持たない。


ところが、王族の結婚は、聖別が必要だった。この、宗教上の結婚を、ナポレオンとジョゼフィーヌは挙げていなかったのだ。


ナポレオンが即位した場合、彼は、宗教的には「独身」だと宣言できる。ジョゼフィーヌは、いつ、宮殿を追い出されてもおかしくはない。



加えて、ナポレオンとの間に子どもが生まれる可能性は、年齢的にほぼ、絶望だ。ナポレオンの親族との仲も悪い……。





フランス皇帝になろうともいう者が、宗教上の結婚式を挙げていないと聞いて、教皇は驚いた。

それは大変なことだ。即座に、結婚を聖別しなさい。
けれど、夫が何というか……。
ナポレオンが宗教上の結婚をしなかったのは、神のかわりに理性を認めようという、革命の合理精神による。ジョゼフィーヌと結婚当初、彼の周りの軍人たちは、こうした者たちばかりだった。



なお、ナポレオンは、妹たちには、宗教的な結婚式を挙げさせている。



17話「モンテベッロの憩い」参照

よろしい。ご夫君には、私から話しましょう。
ローマ教皇から結婚を聖別するようにと言い渡されたナポレオンは、すぐに、ジョゼフィーヌの策略を見抜いた。
ははん。ジョゼフィーヌのやつ、子どもが産めなかったことを気に病んでいるな。

結婚の聖別なんぞしなくたって、あいつは、俺の妻なのに。だから、母や兄、弟妹の反対を押し切って、戴冠式の共催者にしてやったんだ。(ぶつぶつ)

だが、ここでローマ教皇の機嫌を損ねたらまずい。怒って、ローマへ帰られちまったら、ことだからな。


ヨーロッパ諸国に認めさせる為にも、皇帝への即位は、是が非でも、教皇に聖別してもらわねばならない。


仕方がない。言うことを聞いておくか。



戴冠式のまさに前夜、テュルリー宮殿の礼拝堂で、ナポレオンとジョゼフィーヌは、宗教上の結婚式を挙行した。


式を取り仕切ったのは、ナポレオンの叔父のフェシュ枢機卿、立会人は、外相タレイラン**と陸軍参謀総長のベルティエ***だった。



*母レティツィアの弟。

**ブログ「タレイラン」

***ブログ「ベルティエ元帥」


フェシュ枢機卿は、ナポレオンの身内です。最初の元帥として指名されたベルティエは、ナポレオンの参謀長、いわば、ナポレオンの腹心です(この時点では)。また、外相のタレーランは、いままでさんざん、述べてきた、ああいう人物ですから……。


この宗教上の結婚、なんとなく、このままでは済まされない気がします。




結婚の聖別とその前後のあれこれ、詳しくは、ブログに。

ブログ「ナポレオン/最初の結婚と離婚 2」

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登場人物紹介

オーストリア皇帝フランツ


神聖ローマ帝国最後の皇帝でもある。

くそまじめで、四角四面な性格。

ロシア皇帝アレクサンドル1世


父パーヴェルの暗殺に関与または黙認し、即位した。

欧州の平和は自分が守る、と、固く心に誓う「騎士」。

フランス皇帝ナポレオン


あ、最後になっちゃった……。

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