第55話 ジョゼフィーヌの訴え
文字数 1,353文字
(@パリ)
戴冠式を執り行えと……。はてさて、気が乗らないが、仕方がない。ここ数年は、戦争もなかったし。なんとか、接収された教皇領も返してもらいたいものだ。
ところが、王族の結婚は、聖別が必要だった。この、宗教上の結婚を、ナポレオンとジョゼフィーヌは挙げていなかったのだ。
ナポレオンが即位した場合、彼は、宗教的には「独身」だと宣言できる。ジョゼフィーヌは、いつ、宮殿を追い出されてもおかしくはない。
加えて、ナポレオンとの間に子どもが生まれる可能性は、年齢的にほぼ、絶望だ。ナポレオンの親族との仲も悪い……。
フランス皇帝になろうともいう者が、宗教上の結婚式を挙げていないと聞いて、教皇は驚いた。
なお、ナポレオンは、妹たちには、宗教的な結婚式を挙げさせている。*
結婚の聖別なんぞしなくたって、あいつは、俺の妻なのに。だから、母や兄、弟妹の反対を押し切って、戴冠式の共催者にしてやったんだ。(ぶつぶつ)
だが、ここでローマ教皇の機嫌を損ねたらまずい。怒って、ローマへ帰られちまったら、ことだからな。
ヨーロッパ諸国に認めさせる為にも、皇帝への即位は、是が非でも、教皇に聖別してもらわねばならない。
仕方がない。言うことを聞いておくか。
式を取り仕切ったのは、ナポレオンの叔父のフェシュ枢機卿*、立会人は、外相タレイラン**と陸軍参謀総長のベルティエ***だった。
*母レティツィアの弟。
***ブログ「ベルティエ元帥」
フェシュ枢機卿は、ナポレオンの身内です。最初の元帥として指名されたベルティエは、ナポレオンの参謀長、いわば、ナポレオンの腹心です(この時点では)。また、外相のタレーランは、いままでさんざん、述べてきた、ああいう人物ですから……。
この宗教上の結婚、なんとなく、このままでは済まされない気がします。