第25話 マルタ島占拠

文字数 1,818文字


時間を遡って、1798年春。

トゥーロン、フランス軍、軍港


[ジョゼフィーヌ]


しくしく。しくしく。

(泣いている)

[デュマ将軍]


御用ですか、ボナパルト総司令官。

(ドアを開けて部屋に入ってくる)


(ベッドの中のナポレオン夫妻に気がつく)


おっと、これは失礼を……(狼狽)



15話「デュマ将軍」、参照

 ブログ「デュマ将軍と革命期のヒーロー達1」

しくしく。

しくしく。

(泣き続ける)

えーと……(ますます狼狽)。

[エジプト遠征軍*総司令官ボナパルト]


(ベッドの中から)

デュマ将軍。



*正確には、対イギリス軍。実際にエジプトに着くまで、同行する兵士達にも、行く先は秘密だった。

はいっ!(緊張)
君は、今回の遠征に、奥方を連れて行くのかね?
いいえ。
ほら見なさい。デュマ将軍は、奥方を連れていかれない。
しくしく。

しくしく。

あのう……。

(デュマに)

なにね。妻が、遠征についてきたいというのだ。彼女は、俺と、一時も離れたくないんだよ。(やに下がる)


………………。
妻や恋人を同行する士官もいる。だが、俺は、お前を連れて行かないぞ、ジョゼフィーヌ。
しくしく。しくしく。

………………。


1798年3月26日。

トゥーロンから、「オリエント」号率いる大艦隊が出航した。


時を同じくして、イタリアのジェノヴァ、アジャクシオ(コルシカ島)、チビタ・ヴェッキア(ローマ)からも、フランスの艦隊が出航した。


[イギリス:ネルソン提督]


(嵐に遭い、地中海で戦艦補修中)

何! フランスの艦隊が、トゥーロンを出航しただと!?

どこへ向かった!?

探せ! 探し出せ!!

[ナポレオン司令官@船上]


ドロミュー、君には、地質学者として、今回のエジプト遠征についてきてもらったわけだが……。

[ドロミュー:フランスの地質学者]


はい。エジプトでどのような素晴らしい鉱物に出会えるかと思うと、楽しみでなりません。

(わくわく)

うむ。私は、文化芸術に理解が深いからな。


ところで、ドロミュー。君はかつて、マルタ騎士団の司令官だったとか。

昔の話です。

(蒸し返されたくない過去)



*ドロミューは、保守的な貴族の間で不人気だった。加えて彼は、友人を殺し、マルタの騎士団から離れている

だが、マルタ島には、まだ、知り合いがいるだろう?
それは、まあ……。
君に、マルタ島への使者になってもらいたいんだ。

上陸を許可してほしいと、伝えてくれたまえ。

戦艦への補給をしたいのだ。


いや、すでに我々はかの島を占拠している。昨日の大砲の音は聞いたろう?

えっ!

私が、使者?

かつてマルタ騎士だった君の言うことなら、島の人たちも信じるだろう。というか、君の指名は騎士団からなのだ。


もちろん、騎士の面々には悪いようにはしない。


彼らの身分は保証しよう。

しかし……。

(気乗り薄)

君は、フランス共和国の使者だ。

はあ……。

(嫌)

私、ナポレオン・ボナパルトの使者だ!

行きたまえ、ドロミュー!

ナポレオンは、ドロミューに託した約束を守らなかった。


フランス軍はマルタ島を占拠、マルタ騎士団は、権利を剥奪された上、島から追い出されてしまった。


騎士団の面々には、ドロミューへの恨みだけが残った。



※マルタ攻略、詳細はブログに → マルタ騎士団 〜

[ロシア皇帝パーヴェル1世]


(@ロシア)


なにっ! マルタ島を、フランス軍に占拠されただと?

あのカッケー騎士団の面々を追放したというのか?

この俺様が、次の騎士団長の座を狙っていたというのに!

おのれ、フランスめ……。

大至急、神聖ローマ帝国のフランツ帝に連絡を取れ!

わがロシアも、第二次対仏大同盟に参加する!

[従者]


えっ、そんな理由で?



*ロシアの、第二次対仏大同盟参加の詳細は、23話「諸国の思惑・カール大公の恋」参照。いずれにしろ、ナポレオンのマルタ島占拠が、直接の引き金になった。

何か言ったか?
いっ、いえ……。
急げ!

ぐずぐずしてると、シベリア送りだぞ!



占領したマルタ島に、ナポレオンは、革命思想に基づいた共和国家を築こうとした。だが、島の人々の反発は凄まじかった。


6日ほどの滞在でナポレオンは出航する。


その後、マルタ島の人々は反乱を起こし、イギリスに援助を求める。


1800年、フランスはマルタ島から撤退した。以降、マルタ島は、1964年の独立まで、イギリスの植民地となった。



その頃、イギリス・ネルソン提督は……。


味方のフリゲート艦とはぐれた!


ナポレオンはどこだ!?

どこへ向かったのだ?


こうしてフランス艦隊は、無事、エジプトに到着した。


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登場人物紹介

オーストリア皇帝フランツ


神聖ローマ帝国最後の皇帝でもある。

くそまじめで、四角四面な性格。

ロシア皇帝アレクサンドル1世


父パーヴェルの暗殺に関与または黙認し、即位した。

欧州の平和は自分が守る、と、固く心に誓う「騎士」。

フランス皇帝ナポレオン


あ、最後になっちゃった……。

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