第44話 若き皇帝アレクサンドル

文字数 1,246文字

ロシア皇帝に即位すると、アレクサンドルは、徐々に、父の暗殺に加わった人たちを、身の回りから追い払った。



一時的な優遇の後、領地に送り返されたり、国外旅行を命じられたり、国境警備の連隊に配置されたりして、これらの人たちは、ペテルブルクから姿を消した。


[女官]


皇帝陛下?

皇帝陛下。


お姿が見えない。

どこへ行ってしまわれたのだろう……。

[アレクサンドル1世]*


………………。

(宮殿の隅に隠れて、涙をぼろぼろこぼしている)



*即位は24歳の時


父を殺した罪の意識に、アレクサンドルは苛まれていた。

反面、彼は、熱心に仕事をこなした。


僕は、イギリスの憲法 と、フランス革命 を支持している。


ロシアにも、社会正義 と 個人の自由 を!


古いロシアは、生まれ変わらなくてはならない。


けれど、君主制は、何より大切だ!

農奴制は、恥ずべき習慣だ。農奴には土地を与え、独立させねば。


もちろん、貴族ら土地所有者の特権は、守られねばならない。

土地の割譲なしに、農奴を解放する方法はないかな?

けれど、土地なしで解放したら、農奴達は、生きていけないんだよな……。



アレクサンドルは、自分の矛盾に気がついていなかった……。



彼は、宮廷の女性に人気があった。

彼もまた、女性を虜にすることに夢中になった。


友人の妻、フランスのオペラ歌手、女優、ロシア宮廷の貴婦人たち……。


けれど、彼は、決して、深追いはしなかった。

相手が自分に熱を上げてくれたら、それで満足だった。



彼が長く関係を続けた女性がいなかったわけではない。マリヤ・ナルィシチキナ である(下の画像)



ナルィシチキナ一族は、ロシアの名門で、夫は、皇帝の狩猟頭だった。皇室との繋がりもあり、大変、富裕な一族だった。



彼女は、アレクサンドルから、なにひとつ、欲しがらなかった。政治への介入や、親族の取り立ての請願などもなかった。(その必要はなかった)



マリヤの元で、(彼女の夫に 生温かく 見守られつつ)アレクサンドルは、第二の家庭を築いた。二人の間には、女の子が生まれた。



夫の寵姫に子ができた……。


皇后として蔑ろにされていたわけではなかったけれど、エリザヴェータ(アレクサンドルの妃)(下の画像)は、寂しかった。



彼女のかつての恋人、故パーヴェル1世に追い払われたチャルトルィスキは、友であるアレクサンドルに呼び戻された。



が、今更、夫の友人との関係を復活させることはできない。また、チャルトルィスキとの間に生まれた女の子も、今は亡くなっている。






孤独な彼女は、アレクセイ・オホートニコフ という近衛士官と恋に落ちた。*



しかし、彼は、劇場から出たところを、何者かに刺殺さてしまう……。**




*二人の間に女児が生まれたが、1歳半で亡くなった。

**アレクサンドルの弟、コンスタンチン大公の命令とも。


こうした中、アレクサンドルの情熱は、ただひとつ、政治に向けられていた。

彼は、祖母や父の代からの高齢の臣下に代えて、若い友人たち*を採用した。


しかし、全ての決定権は、彼自身が握っていた。



42話「父帝暗殺」参照

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登場人物紹介

オーストリア皇帝フランツ


神聖ローマ帝国最後の皇帝でもある。

くそまじめで、四角四面な性格。

ロシア皇帝アレクサンドル1世


父パーヴェルの暗殺に関与または黙認し、即位した。

欧州の平和は自分が守る、と、固く心に誓う「騎士」。

フランス皇帝ナポレオン


あ、最後になっちゃった……。

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