第52話 ジョゼフィーヌの不安
文字数 1,154文字
第一執政……。終身第一執政……。
あの人の野望は、留まることを知らない。次はもしかして……フランスの君主に!?
王ともなれば、きっとあの人は、新しいお妃を欲しがるわ。だって私は、とうとう、あの人の子を、産めなかったもの……。**
どこかの国のお姫様が輿入れてくるのよ。そうなったら、私は間違いなく、お払い箱だわ……。
ええ。2年の無為を経て、帰ってきました。あなたのご主人に必要とされましてね。
アンギャン公を処刑したことで、国の内外に敵が増えてしまったのね……。
あれは、犯罪以上でした。完全な失策でした。**
(けろり)
けれど、私が呼び戻されたのには、それ以上の理由があります。
野心です。
第一執政は、最高の栄誉に上る為に、敏腕にして恐れを知らぬこの私を必要とされたのです。**
ああ! やっぱり!(絶望)
結婚当初は、私一筋だったけど、エジプトから帰ってきたら、いいえ、エジプトにいた時から、女遊びのし放題で……。そりゃ、昔は、私も浮気はしたけど? でも、あの人が出世してからというもの、頑張って、貞淑な妻を通してきたのよ。その努力が無駄になるのだわ……(ぶつぶつ)。
それに、姑や義妹たちがひどいのよ。オルタンス*をあのひどいルイ・ボナパルト**にくれてやったのに、未だに私をナポレオンと離婚させようと目論んでるの……(ぶつぶつ)
*ジョゼフィーヌの連れ子
**ナポレオンの弟
そんなふうに、くよくよしていてはいけません。ご主人の邪魔をなさるのは無益のわざです*。あなたはただ、明るく楽しい奥様でいらっしゃるがよろしい。
第一執政となったナポレオンは、兄弟たちを、次々と取り立てた。
ジョゼフ(兄)
立法議会の議員
リュシアン(すぐ下の弟、三男。ブリュメールのクーデターでナポレオンを助けた)
24歳にして、内務大臣
ルイ(四男)
軍務での早い出世
ジェローム(五男)
当初は学生だったが、ナポレオン夫妻と共に、テュイルリー宮殿に住まわせた。学業が終わると、海軍へ
また、妹たちも……(以下、妹の年齢順)
エリザ
夫フェリーチェ(コルシカ出身の役人だった)の昇進
(スペイン王立裁判所の大使(1800.11)、陸軍での早い昇進)
ポーリーヌ
ルクレールの死後、裕福なカミッロ・ボルゲーゼ侯爵と結婚させる(「アメリカとインドへの野望」参照)
カロリーヌ
夫ミュラを、最初の元帥の一人に
大切なのは、一統精神だ! 家族は決して裏切らない。血の繋がりこそが、己を救う!
*『ジョゼフ・フーシェ』シュテファン・ツワイク[高橋禎二・秋山英夫 訳]
**は、表現を変えてあります。
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