第54話 弟たちの勝手2

文字数 1,754文字

ヨーロッパの殆どの国は、君主制を敷いている。フランスが、彼らと仲良く付き合っていくには、君主が必要だ。


君主がいなければ、まともに相手にされない。対等の交渉は、不可能だ。フランスは、ヨーロッパの国々の中で、孤立してしまう。

[外務大臣タレーラン]


賛同します。

[警察大臣フーシェ]


同じく。

1804年5月18日。


元老院令により、ボナパルトは、ナポレオン1世として、フランス人の皇帝になったと宣言された。




[すぐ下の弟・リュシアン(ローマから)]


なんだと! 兄貴が、皇帝に!? 共和国の理念は、どうなった!

(手紙)


兄さん。あんたは共和国を殺そうとしている。いいだろう! 暗殺しろ! そしてその死骸の上に立つがいい。しかし、共和国の息子のひとりとして言っておく。あんたが暴力で養っているこの帝国は、いつの日かまた、暴力によって打ち倒されるだろう、と!



*『ナポレオンの母』アラン・ドゥコー[小宮正弘]

リュシアン……身内なのに、なぜ、わかってくれないんだ!

フランスには、君主制が必要なんだ!




この頃、末弟ジェロームは、海軍に籍を置いていた。


乗り組んでいた艦隊が、サン=ピエール島に寄港した際、提督の許可を得、アメリカ合衆国、ボルチモアに滞在していた。




ここで彼は、卸売商人の娘、エリザベス・パターソンと知り合った。


1803年のクリスマスイブ、2人は結婚した。ジェローム19歳、エリザベスは18歳だった。

(知らせを聞いたナポレオン)


結婚? (保護者)に内緒で?


ぐぞーーーーっ!

かわいがっていた、ジェロームまで!!

[ナポレオンの母レティツィア]


兄弟、仲良く……。



皇帝になることの諸外国への通知、教皇への戴冠式出席の依頼、初めての元帥昇格の儀式……これらの中で、ナポレオンは、弟リュシアンと、ジェロームを、自らの後継者から削った。



[末弟ジェローム @アメリカ]


えっ!? 俺、皇族になれないの? 「殿下」って呼んでもらえないの?

(学生時代、デュイルリー宮殿でかしずかれて暮らした生活が忘れられない)



52話「ジョゼフィーヌの不安」参照

ジェローム夫妻は、すぐにフランスへ向かった。

ところが、妻のエリザベスには、上陸は許されなかった。

大切なエリザベス、僕は、しなければならないことは、すべてやるよ。だから、心配しないで。



*同掲書より文意引用

一人上陸したジェロームは、兄に会って許され、あらゆる継承権を認められた。



彼は、エリザベス(最初の妻)の元には、帰ってこなかった。二度と。


妊娠中だった彼女は、フランス上陸を許されないまま、イギリスに立ち寄り、男の子を出産、赤ん坊と共に、アメリカへ帰った。



*詳しくは、ブログ「ジェローム・ボナパルト1」

もうすぐ戴冠式だ。

ジェロームは帰ってきたが、リュシアンは、パリに来ない。出席の返事も寄越さない。


くそ。

戴冠式に来さえすれば、全てを許すのに。

[ナポレオンの母、レティシア]


(ジョゼフィーヌに)

お前だろ! お前がフーシェと図って、ナポレオンとリュシアンの仲を引き裂いたのだな!

[ジョゼフィーヌ]


えっ! ええーーーーっ!!

惚けたって無駄だよ! あたしは知ってるんだからね。お前は、フーシェとこそこそ会っていたじゃないか!
こそこそなんて、そんな……。
フーシェは、陰謀家だ! あの男は、信じられない。お前はあいつに、兄弟の情報を密告したに違いないんだ!! さもなければ、あいつが返り咲いたりなんか、するもんか!

母さん、フーシェは、俺の信任で……(言いかける)
お前は黙っておいで!(ぴしゃり)


いいかい、ジョゼフィーヌ。よくお聞き。兄弟の不和は、全てお前が原因だ。私は最初から、お前とナポレオンとの結婚に、反対だったんだ!

お義母様……。あんまりです!!


(泣きながら退出)

(居残っていた息子ナポレオンに)

(一転して穏やかに)


お前の気持ちはよくわかるよ、ナポレオン。お前はいつだって、フランスのことを考えている。


フランスにとって、帝政は、必要なものだ。兄弟が、一致団結して、これを築かねばならない。

母上……。
私に任せておおき。私が、イタリアから、リュシアンを呼んで来よう。妹たちも集まっている。お前の晴れの日を、兄弟姉妹、全員で祝おうじゃないか。


ナポレオンの戴冠式を前に、母レティツィアは、ローマへ向かった……。


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登場人物紹介

オーストリア皇帝フランツ


神聖ローマ帝国最後の皇帝でもある。

くそまじめで、四角四面な性格。

ロシア皇帝アレクサンドル1世


父パーヴェルの暗殺に関与または黙認し、即位した。

欧州の平和は自分が守る、と、固く心に誓う「騎士」。

フランス皇帝ナポレオン


あ、最後になっちゃった……。

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