第46話 プロイセンへの接近

文字数 1,766文字

妻のエリザヴェータは、バーデン公女だ。

母は、ヴュルテンベルク公女だ。


これらドイツの小国は、常に、フランスの脅威にさらされている。

ドイツ諸国は、フランスとロシアの間にある。いわば、フランスの野望から、ロシアを守ってくれているのだ。


だから、ドイツの国々は、わがロシアの暖かい外套で包み込んでやらなければな。


そうだ!

プロイセンへ行こう!


かのフリードリヒ大王の子孫とお近づきになるのだ!

有名なプロイセン擲弾兵の演習も見てみたい。



*現在の王フリードリヒ・ヴィルヘルム3世は、直系ではない。大王の甥の息子


思い立ったアレクサンドルは、1802年5月、

側近にも告げず、ヨーロッパ国境に赴いたついでに、国境を越え、プロイセンのフリードリヒ・ヴィルヘルム3世と王妃ルイーゼを訪問した。



ブログ「フリードリヒ・ヴィルヘルム3世1」

[プロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム3世]


これはこれは、ロシア皇帝。よくいらっしゃいました。

始めまして。妃のルイーゼです。


あら、ロシア皇帝って、ステキな方ですのね!

いや、それほどでも(満更でもない)。


こほん。

始めまして、プロイセン王、プロイセン王妃。



(傍白)

プロイセン王妃は、美人だなあ……。


アレクサンドルは、女性の恋愛感情を自分に向けさせることが趣味だった。


ミタウに滞在していたフランスのブルボン家は、今、ワルシャワにいるのですよ。

はっはっは。妻が頼まれましてな。

なにしろ妻は、マリー・テレーズ王女(アングレーム公妃)と、親友でして。


(傍白)

おや……。ロシア皇帝は、ルイーゼ()の方ばかり見ているぞ。



*アレクサンドルの父、パーヴェルに追い出された

(アレクサンドルを熱っぽく見つめつつ)


私の母は、マリー・アントワネット様にとてもよくして頂いて……。

マリー・テレーズ様とは、母の代からの親友なんですの。

そうだったんですか……。

(上の空)

ロシア皇帝の奥様は、とても美しい方だとお聞きしましたわ。


エリザヴェータ皇后様は、私と同じドイツの公国、バーデンご出身なんですってね!


バーデン公女は美女ぞろいと評判ですもの。

いやいやいや。

ルイーゼ王女、あなたの美しさに比べたら!

まっ!

いけない方ね。(軽く睨む真似)

……。

(照れ笑い)

(傍白)

よしっ、ルイーゼ、頑張れ!

なんとか、ロシア皇帝に、プロイセンの味方になってもらうんだ!


(アレクサンドルに)

皇帝、どうぞ、ごゆるりと。

滞在は1週間に亘り、この間、観兵式や演習の見学、晩餐会、舞踏会などが催された。


アレクサンドルは、盛大にもてなされた。



彼は、国王夫妻に対し、常に愛想よく、にこやかに振舞った。

まあ! 皇帝はダンスがとてもお上手ですのね!

それに、教養も深くていらっしゃる……。

ルイーゼ王妃、あなたこそ、全てに秀でておられる。

その上、女神のようにお美しい。

そうでしょうそうでしょう。

ロシア皇帝、お国に帰っても、 プロイセン ルイーゼをお忘れなきよう!

アレクサンドルは、この恋愛ごっこが楽しかった。

けれど、相手が自分に夢中になってくれれば、それで満足だった。


情熱的なルイーゼが、まさか、寝室に忍び込んでこないよな……。


プロイセン滞在中、彼は、寝室のドアに閂を掛けて寝た。



ペテルブルク


[アレクサンドルの友人チャルトルィスキ]


軽率です!

プロイセンは、国家として扱われなくちゃなりません!

それなのに、陛下は、個人的な友情を結んじゃって…



ブログ「アダム公チャルトルィスキ」

うん、プロイセン王と友達になった。
王のことではありません!

じゃ、王妃のことか?


いいや。王妃とは、何もなかったぞ? なんと言っても彼女は、「友達」の妻だからな。


君は、僕の妻を寝取ったけど。



41話「めちゃくちゃ」

うぐぐ……。
[側近]*


エリザヴェータ皇后のことはさておき、チャルトルィスキの言う通りです。ロシア帝国の威厳のこともお考え下さい。



以前は、地上の全ての君主が、亡くなられた女帝(エカチェリーナ)のもとに参上したのです。今日では、ロシアの皇帝が、ほかの君主のものとに参上する**とは!



*シメオン・ヴォロンツォフ伯爵

**『アレクサンドル1世』アンリ・トロワイヤ[工藤庸子]

だがまあ、わかったこともある。


実際に演習を見たのだが、プロイセン軍に、かつての栄華はないな。わがロシア軍より、はるかに劣っている。

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登場人物紹介

オーストリア皇帝フランツ


神聖ローマ帝国最後の皇帝でもある。

くそまじめで、四角四面な性格。

ロシア皇帝アレクサンドル1世


父パーヴェルの暗殺に関与または黙認し、即位した。

欧州の平和は自分が守る、と、固く心に誓う「騎士」。

フランス皇帝ナポレオン


あ、最後になっちゃった……。

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