第8話 ナポレオン、最初の結婚

文字数 1,802文字

[総裁バラス]


ほう。彼はそんなに熱心なのか?

[ジョゼフィーヌ]


熱心も熱心、毎日のように通ってくるわ。その上、あの人、結婚しよう、なんて言うのよ?
結婚? すればいいじゃないか。
えーーーーーっ!
結婚しても、私たちの関係は続くわけだし。
あら、そう? 
ああ、そうだ。

ところで、近く、彼を、イタリアへやろうと思っている。

(傍白)

ボナパルトは、ちっとばかり、人気が出過ぎたからな。イタリアへ行って、手ひどい敗北を喫するか、死んでもらえたら……いやいや。
なんでイタリアなのよ?
彼をイタリアへ送るのはな。


・アルプスを越えて、イタリアからオーストリアをけん制する為

・イタリアの豊富な物資を手に入れる為


この二つの理由がちゃんとあるのだよ。

(傍白)

失敗しても、将来の危険人物がいなくなるだけだ。ついでに、この、年増女も……。
だからって、彼と、けっこんーー?

が~~っ?

なんだ。なんか、不満でもあるのか?
彼、早すぎるのよ。
早い? 何が?
大砲をぶっ放すのが。

あれじゃ私、満足できないわ!

………………。
それに私、年齢をサバ読んでつきあってるしぃ。
それは大丈夫だ。あの男は、年増が好きらしい。60歳をとうに過ぎた元女優※1や、自分の母親と同じくらいの年齢の女性※2に、求婚したこともあったらしいぞ。



※1 元女優のモンタシエ

※2 後のジュノ夫人の母、ペルモン夫人

失礼ね! 私はそこまで、トシじゃないわ!


でも、結婚するなら、本当の年齢を言わなくちゃならないでしょう? 彼に嘘をついたのが、バレちゃうもん!

そんなの。役所の書類を誤魔化せばいいじゃないか。
えっ!? できるの!?
幸い、君の故郷のマルティニャック島は、今、イギリスに占領されている。だから、出生証明書が手に入らないといえばいいんだ。あとは、公証人に金を積んで、10歳でも15歳でも、好きなだけ若返らせた事実証明書を書いてもらえばいい。



※ジョゼフィーヌは、フランスの植民地、マルティニャック島で生まれた。

だから、そんなにサバを読まなくてもいいのよ。6歳若くしてもらえれば、それで充分!


こうして、ジョゼフィーヌは、26歳6ヶ月(本当は32歳)とサバを読み、ナポレオンと結婚した。


ところでナポレオンもまた、戸籍係の役人の同意をとりつけ、実際の年齢より1歳6ヶ月年長の26歳と申告している。


こうして二人は、同い年カップルとして、めでたく結婚を届け出た。



この結婚は、「世俗の結婚」である。花婿が2時間ほど遅刻してくるというハプニングはあったものの、区長他、証人も、きちんと揃えられていた。


[ナポレオンの母レティシア]


また、事後報告かい!!

じょぜふぃーぬ・ぼあるね? 誰?


年上? こぶつき? 寡婦?

……。

[妹ポーリーヌ※1]


ナポレオン兄さん、ひどい!

私をジュノ―※2と別れさせて、自分ばっか!


1ブログ「ナポレオンの妹たち 2 ポーリーヌ」

※2トゥーロン包囲戦からの部下

[ナポレオン]


だって、あいつ(ジュノ―)は、ビンボーだから。

今だって、フレロンとの結婚に反対してるでしょ!



※政治家。マルセイユに派遣されていた。4話「トゥーロン包囲戦」参照

ポーリーヌ、お前、乗り換えるのが早すぎないかい?
フレロンなんて、ダメに決まってる! お前より26歳も年上なんだぞ? 四半世紀も年寄りじゃないか! そのくせ、遊び人だし……。
ねえ、ポーリーヌ。

あの男から、まさかお前、ヘンな病気……。

もうっ!

母さんは黙ってて!

ポーリーヌ。お前は大事な妹だ。俺が、きっと幸せにしてやるから。
えっ、兄さんが? 無理よ。
そうじゃない!

俺が、お前にふさわしい男を見つけてやる!

だから、フレロンとは別れなさい。

ぶうぶうぶう。
[長男ジョゼフ]


おい、ナポレオン。お前だってそうだぞ。

あの女(ジョゼフィーヌ)だけはダメだ。いろいろ悪い噂を聞いている。陽気な寡婦とか言われて、遊び歩いてるんだぞ!

[弟ルイ]


そうだよ、兄さん。彼女は、バラスの愛人だよ?

ルイ……よく知ってるな。

その通りだ、ナポレオン。


第一、お前には、俺が紹介してやったデジレ(義妹)がいるだろう?
彼女は俺の元カノだ。

おい……。


今からでも遅くはない!

ジョゼフィーヌとは別れるんだ!

[ナポレオン]


(ジョゼフィーヌのベッドの中)


ジョゼフィーヌ・ラブ!

(何とでも言わせておけ……)

[ボアルネ家の犬、フォルチュネ]


わんわんわん!

(布団から出ているナポレオンの足に噛みつく)

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登場人物紹介

オーストリア皇帝フランツ


神聖ローマ帝国最後の皇帝でもある。

くそまじめで、四角四面な性格。

ロシア皇帝アレクサンドル1世


父パーヴェルの暗殺に関与または黙認し、即位した。

欧州の平和は自分が守る、と、固く心に誓う「騎士」。

フランス皇帝ナポレオン


あ、最後になっちゃった……。

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