第17話 モンテベッロでの憩い

文字数 1,941文字

1797年10月18日。オーストリアとフランスの間に、カンポ・フォルミオの和約が結ばれた。これは、半年前の、レオ―ベン条約*(「タリアメントの戦い」参照)を下敷きにしている。



この条約は、実は、ライン方面での勝利こそ、評価されるべきものだった。フランスは、ライン左岸を、完全に手に入れることができたのだ。これは、権勢を誇った太陽王、ルイ14世でさえなしえなかった偉業である。(ただし、この功績は、ナポレオンのイタリア軍に帰すべきではない。ライン軍で戦ったサン=シル将軍が言うように、営々と戦い続けた、ライン軍にこそ、その栄誉は与えられるべきである。)



イタリアにおいては、オーストリアは、ヴェネチア併合を認めてもらう代わりに、領土の大半を手放し、チサルピーナ共和国(フランスの傀儡国家)を認めさせられた。



なお、なお、カンポ・フォルミオ条約は、ナポレオンが単独で、オーストリアと結んだ。ナポレオンが頭角を現してくる上で、欠かすことのできない功績である。



16話「タリアメントの戦い」参照。

 なお、イタリアで勝利してから、ナポレオン軍は、タリアメントでの戦いを含むオーストリアの反撃を、3度、撃退している。

ライン左岸までの国境拡大? 革命戦争における、ライン軍*の粘り?


いやいやいや。何言ってくれちゃってるの。大事なのは、イタリアにおける領土拡大でしょ。ま、俺の手柄なんだけどね!



*カルノーの言う、北軍と中央軍。9話「イタリア遠征」参照



これは、ナポレオンの策略だった。

イタリアの獲得が強く印象付けられ、ナポレオンの勝利は、パリに轟いた。



[オーストリアの外交官ルートヴィヒ・コベンツル]


ナポレオンという男は、気分屋で、まるでつかみどころがない。

挙動が芝居じみていて、マナーは最悪。陋屋(ろうおく)から出てきた男のように振舞う。


オーストリアとの戦いが一段落し、ナポレオンは、北イタリアのモンテベッロに、母や妹ら家族を呼んだ。パリからは、とうとう、妻、ジョゼフィーヌもやってきた。



モンテベッロは、ナポレオンが初めて築いた王朝めいたものといわれている。

イタリアの人々は、フランス女性の、まるで下着のような薄物のドレスに驚いた。




フランス士官は、皆、若かった。


彼らは、美しいイタリア女性と、束の間の逢瀬を楽しんだ。夕刻、並木道の端に止められた馬車の中で、多くの愛が語られた。

ナポレオンは、妹二人の合同結婚式を行った。

法律上の世俗の結婚と、そして……

宗教上の結婚式と。




フランス革命は、カトリックを排斥しているので、宗教上の結婚式は、非公開で行われた。


なお、ナポレオンは、ジョゼフィーヌとは、宗教上の結婚をしていない。

[ナポレオンの妹ポーリーヌ]


お兄ちゃん、ありがとう! ルクレール※1は素敵な人だわ!

(ジュノ―、フレロンのことは、すっかり忘れている※2



※1 第9話「イタリア遠征」参照

 ブログ「ナポレオンの妹たち2」


※2 第8話「ナポレオン、最初の結婚」参照

[上の妹エリザ]


とにかく、さっさと結婚したかったの!

フェリーチェは、私が自力で見つけた夫よ!

お兄ちゃんは気に入らないみたいだけど……。



ブログ「ナポレオンの妹たち1」

[母レティシア]


ほんとに、なんであの子(ナポレオン)は、フェリーチェのことが気に入らないんだろうねえ。コルシカの役人だから、安定した収入が見込めるのに。なにより、同郷人なのが、気に入った!


そしてやっぱり、ボナパルト一家は、ジョゼフィーヌが気に入らなかった……。



そんなある日、不幸が襲った。

[ジョゼフィーヌの愛犬フォルチュネ]


わんわんわんわん!

(料理人のマチフス犬の尻に噛みつく)



5話「カルムの監獄」

 8話「ナポレオン、最初の結婚」

 参照

マチフス犬は振り向きざま、フォルチュネの頭を噛み、フォルチュネは、あっという間に絶命した……。
ジョゼフィーヌは嘆き悲しみ、心の穴(ペットロス)を埋める為に、(ちん)を飼い始めた。
[料理人]


あっ!


(散歩中のナポレオンを見て、慌てて逃げ出す)

[ナポレオン]


おい、どうして私を見て逃げるのだ!

わっ、私の姿をご覧になったら、将軍様がご不快な思いをされると思いまして。

フォルチュネのことか? たかが、犬の仕出かしたことじゃないか!

それで、あの犬はどうしたね?

申し訳ございません、まだ、飼ってございます。
ふむ……。
けけけ、決して、お庭には入れませんので!
なぜ?
それは、奥様が、別のお犬様をお飼いになられたからで……
遠慮せずとも、今まで通り、好きなように走り回らせてやったらいい。
えっ!?
今度来たやつ()も、うまい具合にいなくなるかもしれないじゃないか!



※犬のエピは、

アルノ「回想録」より

(『恋するジョゼフィーヌ』ジャック・ジャンサン)

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

オーストリア皇帝フランツ


神聖ローマ帝国最後の皇帝でもある。

くそまじめで、四角四面な性格。

ロシア皇帝アレクサンドル1世


父パーヴェルの暗殺に関与または黙認し、即位した。

欧州の平和は自分が守る、と、固く心に誓う「騎士」。

フランス皇帝ナポレオン


あ、最後になっちゃった……。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色