第22話 彼女に夢中だ

文字数 1,083文字

[神聖ローマ皇帝フランツ]



ルイ18世はイタリアを追い出され、ロシア*の援助を受けようとしているし。

フェルゼン伯は、マリー・アントワネット(叔母上)の預けた財産を返せと言ってくるし。



*アレクサンドル1世の祖母エカチェリーナ。1796年11月、彼女が亡くなると、息子のパーヴェル1世(アレクサンドルの父)が即位する

[カール大公(フランツ帝の弟)]


財産を返せって、フランスの王女(マリー・テレーズ)に、ですか?

当然そうなさるべきでしょう。

そもそも彼女は、叔母上の娘ですからね。

そのマリー・テレーズにも、困っておるのだ。


我々の庇護下にありながら、彼女は密かに、フランス亡命貴族に送金をしている。

おまけに、ドレスの色は青、ブルボン家の旗の色ばかり着たがる。

[カール大公]


(その話は聞いている)

くすくす

(笑う)



20話「見せかけの盲従」参照

笑っていないで、さっさと彼女に、結婚を申し込んだらどうだ?

お前だって、彼女のことは好きなのだろう?


アマーリアとクレメンティーネに聞いたぞ?

[皇帝とカールの妹、アマーリア]


(回想)


カールお兄様がおっしゃったわ。

お兄様、マリー・テレーズ様のことが、お好きなんですって!

(興奮)

[皇帝とカールの妹、クレメンティーネ]


(回想)


私も聞いたわ!

カールお兄様ったら、はっきりおっしゃるのよ!

彼女のことが大好きだって!

(大興奮)

それに、叔母上の元秘書にも、言ったそうだな。
[マリー・アントワネットの元秘書]


(回想)


カール大公は、テレーズ様を、じっとご覧になっていました。

そして私に、

「私は従妹に夢中だ」

とおっしゃったのです。



*ジャック・マティユー・オージャール

ええ、言いました。

実際、彼女は尊敬すべき、稀有な女性です。

それを、本人には言ったのか?
いいえ。

(ため息)


脇ばかり固めてないで、とっとと結婚を申し込んだらいいじゃないか。

何をためらっておるのだ。

お前は、神聖ローマ帝国の、れっきとしたプリンスなんだぞ!

私は未だ、フランスを、撃退してはおりません。
…………は?


いやいやいや、何を言う。

ライン方面でのお前の活躍は素晴らしかったではないか



*10話「ライン防衛」 参照

いいえ、兄上。

フランスに全面勝利をしておりません。

それどころか、フランスの領土をライン左岸まで拡大させ、ベルギーやイタリアの大半も失った*。むしろ、敗北です。



*レオ―ベン条約(後にカンポ・フォルミオの和約に引き継がれる)

 16話「タリアメントの戦い」参照

カール……。(呆れ)


この戦いは長くなるぞ。そんなに長い間、待たせるつもりか?


女の気持も、少しは、考えてやれ。

………………。
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登場人物紹介

オーストリア皇帝フランツ


神聖ローマ帝国最後の皇帝でもある。

くそまじめで、四角四面な性格。

ロシア皇帝アレクサンドル1世


父パーヴェルの暗殺に関与または黙認し、即位した。

欧州の平和は自分が守る、と、固く心に誓う「騎士」。

フランス皇帝ナポレオン


あ、最後になっちゃった……。

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